第3話 異様な現場

 宮島隊長は部下の三名を連れて、巡視艇まつなみに降り立った。一羽の白いかもめが驚いたように飛び立つのが見えた。第五福竜丸は川上三等陸佐が隊員2名で調査に入った。宮島隊長は部下には周囲に細心の注意を払うように命じていた。防護服を着用していると視界が狭まるし、突然の事態に敏捷に反応することが難しかった。隊員たちは今までに経験したことない緊張感に襲われていた。宮島隊長は操舵室に最初に入った。そこで見た光景は想像を絶していた。床に2名の海上保安官が倒れていた。一人は仰向けにもう一人はうつ伏せだった。制服から露出している部分は骨が露出していた。

 緊急通信があってから6時間余りしか経過していないのにこれだけ腐敗が進むことは通常考えられない。通信室で発見した遺体は容易ならざる事態が進行中であるという警報が鳴り響いていることを宮島隊長に確信させた。

「川上三佐、遺体の状況はどうなっている」「遺体袋に収容されていますが、完全に白骨化しています。まるで火災にあったみたいに焼け焦げています」

「遺体にはもう触れるな。遺体袋は二重にして、テープで密閉しろ」

 通信機を前にして、息絶えていた海上保安官の頭蓋骨には斧が突き刺さったままだった。斧の周りにわずかに肉片が残っていたが、体のほとんどが白骨化していた。異様だったのは頭部から大量に出血したはずの血痕がまったく見当たらないことだった。この海上保安官を殺害したのは誰だったのだろう。

 巡視艇に生存者は発見出来なかった。全員を死に追いやったのが病原菌だとすると恐るべき毒性と感染力だった。しかもこんな遺体を見るのは初めてだった。宮島隊長は重大な決定を下す決断をした。

「本部、本件はバイオセーフティレベル4に該当すると考えます。感染リスクのある者の厳重な隔離を要請します」宮島隊長の要請に本部の全員が声を失った。


 

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