Eからの訪問者

@Blueeagle

第1話 異変の始まり(1日目)

 水深2千メートルを超える深海で異変が始まっていた。この辺りの深度に生息している巨大な生物の死骸が海面を漂っていた。深夜に点滅する光に引き寄せられた漁船の船長が見たのは体表の色が激しく変化しながら発光を繰り返すダイオウホウズキイカの死骸だった。経験豊富な船長は時々網にかかる深海生物を見てきたが、こんな異様な光景を見るのは初めてだった。

「船長、こんなダイオウホウズキイカ見たことありますか。こいつ生きているんですかね」

「ピクリともしないから死んでいるんだろう。色を変化させて発光するダイオウホウズキイカなんて聞いたことがない。まったくの新種のイカかもしれない。持ち帰って、専門家に調べてもらおう」

「船長、こいつ体長が十メートル以上ありますよ。甲板に引き上げるは無理ですよ」

「そうだな。曳航するしかないな。漁はいったん中止して港に帰ろう」

 第五福竜丸が母港の焼津に戻って来ることは無かった。通信が途絶えたことから捜索していた海上保安庁第三管区の巡視艇まつなみが房総沖を漂流する第五福竜丸を発見したのは捜索開始後三日を経過した午後3時18分のことだった。

 巡視艇から漁船に乗り移った海上保安官が見た船内の光景は異様だった。北朝鮮のスパイ船や密輸船の摘発をしてきた経験豊富な海上保安官にとっても黒焦げになった遺体が横たわっている現場は初めて見るものだった。遺体は四体あり、全て黒焦げの骨になっていた。

「火災があったようには見えないな」船内には火災を示すような跡は無かった。

「伊藤イッシ(一等海上保安士)、引き上げた漁網に骨が引っかかっていました」山本三等海上保安士が持っていたのは巨大な白い骨だった。

「イカの甲だと思うが、その大きさからするとかなりの大物だ。それにしてもこの漁船に一体何が起きたんだ」巡視艇から乗り移った二人の海上保安官に異変が起きたのはその日の日没後のことだった。

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