第3話 四歳の日課
さらに二年が経過して四歳になった。
今では外まで自由に出られるようになった。
といっても、基本的に村人達に見守られているけど。
うちの村の名前はエンド村と言うみたい。
田舎の田舎らしくて、村には広い畑なんかもあって、爺さんや婆さんが畑を耕していたりする。
ただ一つだけ気になる事があるというなら、上着を脱いでクワを振り下ろす爺さんがものすごいムキムキなのは気のせいか?
「ん? ユウマじゃないか。また家から逃げて来たのか?」
「おはよー! マル爺!」
「おう! 今日も可愛いな!」
一瞬で畑の端からやってきた爺さんが僕の頭をわしゃわしゃ撫でてくれる。
無骨で大きな手だけど、僕を見守ってくれる暖かさが込められてわしゃわしゃされても、全く嫌な感じがしない。
それとスキルのおかげなのか爺さんの動きはものすごい俊敏だ。
最初は僕が子供だから反応し切れてないと思っていたけど、そんな事はなくて、村人のみんなが本気を出した時の動きはものすごく速い。
きっと異世界人はみんな速いのかもしれないね。
「きょーもぼーけんにいってくる!」
「そっか! でも村の外にだけはでないようにな?」
「あいっ!」
お母さんだけじゃなくて村人達からも村の外には絶対に出ないようにと言い聞かされている。
その中でもお母さんに関しては、もし一度でも外に出ようとしたら、家の外には出さないとまで宣言されてしまった。
お母さんが本気になるとめちゃくちゃ怖いので素直に従う事にする。
今日は村の中央に向かう。
異世界には機械文明は全くないようで、魔道具というのが機械の代わりには存在するけど、うちの村は田舎らしくてあまり見かけない。
前世でのおばあちゃん家がこんなのどかな景色だったかな。
田んぼが並んでいる道を通り抜けて、大通りを歩いて中心部を目指す。
中心部には村に似合わない大きな噴水があって、美しい水が常に溢れている。
噴水の水を利用して畑の水やりとかしてたりするが、僕がここに来た目的は――――――。
「こんにちは! うんでー姉ちゃん!」
「あら、おはよう。ユウマ」
噴水の中を泳いでいた水色の人魚がこちらに顔を出す。
絵本でしか見た事がない人魚だったので、初めて実物を見た時にはものすごく驚いた。
まだ赤ちゃんだったので泣いたと勘違いしたお母さんは、あまり噴水を通らなくなったけど、最近は僕が噴水に遊びに来るので気にしないようになった。
そして、僕が驚いた人魚さんは、水の精霊『ウンディーネ』というみたい。
彼女曰く、この村は彼女が作り出す水のおかげで潤っているという。
他にも何人かの村人と交流があるらしいけど、僕が
ウンディーネさんによると、精霊を見れる人は数少なくて、特殊なスキルを持っていないと見れないらしい。
まだ加護を授かっていない子供の僕が見えるのは、あまりよくないみたいだ。
「あら、誰か来るわね。じゃあ、またね~」
「あいっ!」
次の瞬間、一瞬で僕の後ろから気配がする。
「ユウマかい?」
「あい! おはよーメルさん!」
後ろには村人のメルおばさん。
どこからどうを見てもただの村人なのに、動きはものすごく速い。
今も一瞬で僕の背後に現れて声を掛けているのだ。
「噴水の中に入っちゃダメだよ?」
「うん! でもみずがきもちいーの!」
「そうさね。この噴水の水は聖なる水だからね」
「せーなるみずぅ?」
「ユウマも大きくなったら分かるさ。水飲むかい?」
「うん!」
メルおばさんは噴水の脇に置いてあるコップを取って、噴水の水をすくってくれた。
僕一人でもできるけど、噴水に落ちたら危ないと村人達はこうして世話をしてくれるのだ。
お母さんお父さんお兄さんだけでなく、村人達みんなが凄く優しくて、退屈な毎日だけど楽しく過ごしている。
コップに入った水を飲む。
透き通った水は、甘さすら感じるくらいに美味しい。
メルおばさんやウンディーネさんが言う通り、聖なる水というのが分かるくらいには美味しい。
「ごちそーしゃま!」
「うふふ。偉い偉い~」
マル爺さんと同じく、メルおばさんも僕の頭を優しく撫でてくれる。
飲み終えたコップは噴水で洗って元の位置に戻された。
それを見届けたら、今度は近くの果樹園に向かう。
本当は走れば早いんだけど、まだスキルを持っている事がバレたら良くないとウンディーネさんが言うから、普通に歩いて進む。
足が疲れる事はないので、時間を使ってゆっくりと歩く。
前世では大人になってから自分よりも大きい木々ですら小さく感じていた。
子供に戻った事で、世界がどれだけ大きいのかが分かるようになった。
一つの樹木でさえも、いくら飛んでも手が届かないくらいに高く聳え立つ。
自然を感じて久しいのもあって、最近はぼーっと木の下で休んだりもする。
最終的に数十分後に果樹園に辿り着いた。
「マリねーちゃん~!」
数秒して、やっぱりマリ姉ちゃんも僕の背後に一瞬で現れる。
「あら、ユウマじゃない。今日も遊びに来てくれたの」
「うん!」
「うふふ。今日は何を食べたい?」
「あれ!」
一所懸命に右手を伸ばして指差した場所には紫色に輝く果物――――大粒のブドウが見える。
前世のブドウとはまるでサイズ感が違うブドウに手を伸ばしたマリ姉ちゃんは一粒だけ取って僕に渡してくれた。
それでも僕の両手いっぱいに持てるくらいのサイズ感だ。とんでもなく大きい。
「ありがと!」
「ふふっ。私も一緒に食べよう。あそこにいこうか」
マリ姉ちゃんと一緒に近くにあった大きな樹木の下に来て座り込む。
異世界だからなのか虫一匹いないので、座っていても虫に噛まれるなんてこともない。
両手いっぱいのブドウの皮を少し剥いて、中身をかぶりつく。
ものすごい甘味と少しの酸っぱさが織りなすハーモニーが口の中に広がっていく。
お母さん達の料理も美味しいけど、村の果物は最高のごちそうだ。
マリ姉ちゃんとたわいない事を話し合いながら果物を楽しみながら一日を過ごす。
僕の毎日の日課になっているのである。
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