第十八部第三章 旅路その十六

「それだけを防げればいいのです」

「ニーベルングとブラウベルグ、そしてガンタースによって」

「はい。まあ一挙にそれだけの艦隊を動員することはまあないでしょう」

「国をかけない限りはか」

「とりあえずはエウロパにはそれを行う力は消えております。他ならぬこの戦争で」

 エウロパがこの戦争で失ったのは五百個艦隊のうちの百五十個艦隊だけではないのだ。金銭的な損失もかなりのものであるし人的な損失も凄まじいものであった。それはエウロパがエウロパになってはじめての規模であったのだ。

「うむ」

「その間に五百艦隊を退けられるように整えておきます」

「わかった。ではそれは任せるぞ」

 カバリエと八条に言い伝えた。

「はい」

「そして経済的にだが」

「はい」

 二人はまたキロモトの言葉に顔を向けた。

「既に財政的な足枷は行った」

 賠償金のことであるのは言うまでもない。

「これで経済的にもかなり困るのは確実だ」

「確かに」

「それにエウロパ内部だけでは経済活動も限られたものになる。特に気にしなくていいだろう」

「ではこれは放っておいてよいのですね」

「うむ」

 キロモトは頷いた。

「それでいいと思う」

「わかりました。ではその様に」

「わかってくれたか」

「技術面でもですね」

「彼等の技術は我々にとって脅威と言えるものではないと思うが」

 八条にそう返した。

「それに足枷ばかりしても彼等の反感を過剰に買うだけだろう」

「ではこれもよいと」

「そうだ。彼等には活発に動いてもらいたいしな」

「我々に矛先が行かない限り」

「そう、我々に行かなければいい」

 その言葉が少し剣呑なものになったように聞こえた。

「それでいいと思うが」

 キロモトはここで言った。

「それを考えるとニーベルングを固めることは重要だな」

「はい」

 八条は頷いた。

「そちらは長官に一任する。頼むぞ」

「わかりました」

「エウロパはこれから辛い状況になるでしょうね」

「戦争に負けるとはそういうことなのだな」

「はい。東は我々が抑え南はサハラに防がれ」

 エウロパの現実であった。あまりにも過酷と言えば過酷だ。この状況がどれだけの閉塞的状況なのかはもう言うまでもないことである。

「北と西に行くしかないが」

「何十万光年も闇だけが拡がっています。これを越えることは」

「彼等の技術では無理だろうな」

「我々にしろ不可能です」

 連合ですら何十万光年もの距離を踏破できる艦艇は持ってはいない。

「ましてや彼等は」

「それが出来たならばまさに大航海時代だな」

「第二の」

「今度は香料を求めるわけではない」

「プレスター=ジョンの国ならあるかも知れません」

「モンゴル帝国かも知れないがな」

 かってヨーロッパ人達に信じられてきた伝説の国である。最初はアジア、そして後にはアフリカにあると言われていた。キリスト教徒の王が支配する国であり、いずれイスラム教徒を討ち、彼等を救うと言われていた。それがプレスター=ジョンの国である。

「若し彼等が行くとなればどうなるでしょうか」

 八条は問うた。

「求めるのは新たな領土ですが」

「辿り着くまでに多くの犠牲を出すだろうな」

 キロモトはそれにこう答えた。

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