第一部第一章 若き将星その二
こうして彼は次々に武勲を挙げていった。前の戦いでは敵の防衛線を最初に突破している。これにより中佐になり今に至る。
彼を同僚達は『若き狼』という。精悍で動きが速くしかも優れた能力を持っているからだ。その気性も熱く攻撃的である。そして同時に極めて冷静な思考を出来る人物でもある。
この戦いにおいては中央艦隊にいた。だが戦局の悪化により最前線に送られたのだ。
「友軍の撤退状況はどうなっている」
彼は傍らにいる副長に対して問うた。
彼もまだ若い。といっても二十五である。茶色がかった髪に濃い茶の瞳、浅黒い肌を持つ長身の美青年である。名をイマーム=ガルシャースプという。アッディーンと同時にこの艦に配属された人物である。階級は大尉である。
士官学校卒業後順調に進みこの艦の副長となった。温厚で堅実な人物といわれている。
「ハッ、既に損害の酷い艦は徐々に戦場を離脱しております」
彼はモニターを手で艦橋の上部に映し出された指し示しながら報告した。
「それに対し敵軍は攻勢を強めております。駆逐艦及び高速巡洋艦の部隊がこちらに接近してきています」
「どうやら我が軍の数が減ったのを見て一気に攻めるつもりか」
アッディーンはその駆逐艦及び高速巡洋艦の一群を見ながら言った。
「その様です。それも撤退する艦を集中的に狙うつもりのようです」
「我々は戦艦の主砲に任せてだな。成程、手堅い戦法だ」
彼は不敵に笑いながら言った。
「だがそうそう上手くいくものではない」
彼は口を引き締めてそう言った。
「今から敵駆逐艦及び高速巡洋艦部隊に対し攻撃を開始する。主砲及びミサイルを全弾装填せよ!」
「ハッ!」
砲術長が敬礼した。
「奴等の進行方向に行く。そして一斉攻撃を浴びせよ」
彼は次々に命令を出した。アタチュルクはそれに従い大きく動いた。
戦局は変わった。アタチュルクの攻撃により敵の駆逐艦及び高速巡洋艦はその動きを制止させたのだ。
「今だ!」
これに対してオムダーマン軍は攻撃を仕掛けた。動きが止まったところに攻撃を仕掛けられたサラーフの駆逐艦、高速巡洋艦部隊は次々とビーム砲やミサイルを浴びた。
「敵の動きが止まっているな」
それは前線に来たアジュラーンの旗艦からも確認された。
「ハッ、アッディーン中佐の艦が敵駆逐艦及び高速巡洋艦の部隊を止めたのです」
「一隻でか!?」
彼は驚きの声で問うた。
「はい、敵の進行方向に向かい一斉攻撃を仕掛けたのです」
「そうか、それで動きを止めたのか。やりおるな」
彼はそれを聞いて大きく頷いた。
「だがそれで戦局は変わったな」
見れば敵の駆逐艦及び高速巡洋艦部隊は殆ど壊滅してしまっている。戦艦、ミサイル艦部隊も彼等が前にいる為容易に攻撃出来ない。
その間にオムダーマン軍は上下から回りこんだ。そして挟み撃ちにする。
オムダーマン軍の艦艇の特徴はその火力にある。これはサハラ諸国の中でも特に際立っていた。
その火力で攻撃を開始したのである。サラーフの艦艇は次々に炎に包まれ白い光となっていった。
「司令、もしかするとこれは・・・・・・」
参謀は次々と破壊されていく敵の艦艇を見ながらアジュラーンに言った。
「うむ、勝てるかも知れんな」
アジュラーンは薄く笑って答えた。彼は戦局が次第に自軍に傾こうとしていることを感じていた。
「戦場に残る兵力はどれ程だ?」
彼は別の参謀に問うた。
「ハッ、今退却せずこの場に残っているのは役百二十万程です」
その参謀は敬礼をして答えた。右腕を胸の高さで肘を直角にし胸に対して水平にするオムダーマン式の敬礼である。
「そうか、思ったよりずっと多いな」
アジュラーンはそれを聞いて笑みを浮かべて言った。
「作戦変更だ、一気に攻勢に転ずる。全軍突撃用意!」
彼は右手を挙げて言った。
「このまま敵を押し潰す。そして勝利を我等が手にするのだ!」
そう言うと旗艦を敵軍の方へ突入させた。他の艦もそれに続く。
それはアタチュルクからも確認された。
「艦長、我が軍が攻勢に転じました」
ガルシャースプはアッディーンに報告した。
「何、またそれは極端だな」
彼はその報告を聞いて思わず苦笑した。
「ついさっきまで撤退しようとしていたというのに」
「戦局が変わりましたからね。我が艦の行動により」
彼は表情を変えることなく言った。別に嬉しくもないような口調であった。
「そうか、ビームもミサイルも全て撃ち尽くしたらすぐに後退しようと思っていたのだが」
「そのわりには大胆な行動ですね」
「大胆!?別にそうは思わないが」
アッディーンは不敵に笑って言った。
「連中は傷付いた艦を狙おうと躍起になっていた。そこに油断が生じていた。その前にいきなり出て斉射すればその動きが止められると思ったからやったんだ」
彼はしれっとした口調で、しかし不敵に笑ったままの顔で言った。
「しかしあれだけの数の敵の前に一隻だけで出るのは自殺行為ですよ」
「死ぬとは思わなかったからな。奴等は俺を見ていなかったから」
彼は視線をモニターに映る敵の残骸に移して言った。
「だからああなったのだ。戦場において油断はそのまま死に繋がる。それを教えてやったのだ」
「えらくきつい教え方ですな」
ガルシャースプは言った。
「ああ。しかしガルシャースプよ」
「何ですか」
「それを表情を変えずに言うのは少し無気味だな」
「そうでしょうか」
やはり彼は表情を変えなかった。アタチュルクも攻撃の中に加わっていった。
戦局は完全にオムダマーン軍のものとなっていた。サラーフ軍は次々に撃沈され次第にその数を減らしていった。
損害が二割を超えようとしていた。サラーフ側の司令官はそれを見て遂に退却を決意した。
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