第6話 黒い暴発
「おっかしいな…教室には居なかったから、ここに居ると思ったんだけどなぁ…」
日直の当番で仕事が終わった後、教室に戻ったら碧唯の姿がなかった。
もう例の公園に行ったのかと思い来てみても、人っ子一人いない。
う~ん…用事があったから帰ったとか?
でもそれなら俺に一言、言うだろうしな…
ここ何週間も一緒に居たのだ。そこまで信頼関係を築けていないとは思えないし
「探すったって、やみくもに探しても非効率すぎるし…全く、どこ行ったんだよ碧唯の奴は」
§
「うん?なんだろ、これ?」
学校の掃除の時間が終わり、自分の机に乗っている椅子を下げ、机の中から荷物を取り出していると、封筒が入っていた。真っ白でなんの変哲の無い普通の封筒。封の部分はセロハンテープが張られているだけだ。
封筒の裏表を確認してみるも、差出人の名前は確認することが出来ない。
ただ表面に「碧唯ちゃんへ」と書かれているのみ。
そこで、脳内に電撃が走る。
これが所謂ラブレターという奴なのではないだろうか、と
漫画でよく見たことのある状況に、心が高鳴る。
周りに見えないように体で隠しながら、震える手で何とかテープを外して、中身を取り出すと、
――放課後、体育館裏で待ってます――
文字を追っていくうちに、顔が熱く、真っ赤になっているのが自分でもわかる。
ずっと一人も見方がいない中で、ただ一人寄り添ってくれた彼に好意を抱かない方がおかしかった。
接していて、変に大人ぶる必要がなくなって、一人の身の程にあった少女に戻してくれた気がして、うれしかった。
きっかけは覚えていない。一緒に居る時間が増えるうちに、隣に居るのが普通になった。彼がいない時間に感じる苦痛が大きくなった。
小学3年生なんだから、チョロくて当然だと自分に言い訳をしながら…
より依存するようになって、それで…
これからのことを妄想していくうちに、幸せな気持ちであふれる。微笑みが広がり、心は喜びと幸福で満たされていった。
別にこんな回りくどいことをしなくてもいいのに、
いつもの海で言ってくれればボクは速攻OKを出しいたというのに。
でも昨日とかボーとしていたところを見るに、きっとあそこで言う勇気がなかったのだろう。
まったく変なところでヘタレというか…まあ残念というか…
でも、まあそれくらい許してあげよう。
なんて、
体育館裏は、砂利が敷かれ、雑草が無造作に生えており、そこまで雰囲気がいいとは思えなかった。
でもこれから、起こることを考えれば全く気にならないどころか、この雰囲気も100万ドルの景色に勝る気もした。
数分、数十分待っただろうか?
そわそわしながら、永遠に近い時間を待っていると、不意に聞こえる砂利を踏む音。
やっと、来た!!!!
待ちに待った幸福の時間を期待してふり向くと、そこに居たのは、全くの別人…
ボクを親の仇のように見てくる数人の小学生。
「お前だな、俺のゆりかを虐めている奴は!!!」
その言葉に、急速に心が冷えていく。
アツアツに温めた液体の方が氷になるのが早いように、あれ程高鳴っていた鼓動が、全くと言っていいほど、聞こえない。
まるで、画面越しにテレビを見ているような感覚に陥る。
何かの間違いだ、絶対になにかかが
―――オカシイ。
こんなの嘘だ。
「君は…いったい誰だい?」
頑張った方だと思う、今すぐにでもブチ〇しそうな衝動を何とか抑える。
あんなに期待して、熱望していたのが、こんなクソみたいな結末であるはずがないい。
「悪に名乗る名なんてないね!!!」
「そうかい、ボクは水野碧唯というんだ、以後お見知りおきを」
「フンッ」
丁寧に頭を下げる。角を立てないように、冷静さを忘れないように。
「それで、用事というのは何なんだい?」
「とぼけるな!ゆりかを虐めていた卑怯モノ!」
「とぼけなどないさ…本当に」
相手をチラ見してみる。ウチのクラスの男子たちだ。
ヒーローでも気取っているつもりなのだろうか?
くだらない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない
くだらない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない
今まで何とか押し込んでいた、黒いナニカが溢れ出てくるのが分かる。
ただでさえ、最近はその蓋はガタガタに緩んでいたのだ。こんな不意打ちをされては、しっかりと蓋を占めることも
心の奥底から、
―――お前は、ボクから借りた教科書をボロボロにして捨てたじゃないか。
「反省しろ!」
―――お前は、ボクのランドセルに石を投げつけてきたじゃないか。
「いじめするなんてやっぱりお前は最低だな」
―――お前は、他クラスのデブを虐めていただろう。その虐めを助けた豚から向けられる気持ち悪い視線の不愉快さがわかるかい?
「………」
最後に、5人の後ろに隠れながら、こちらを伺い見ている女に視線を向ける。
「ゆりか」なるほど、覚えがある名だ。いじわるで隠された家の鍵を夜遅くまで探してやった女だ。
確かにこの女は、顔が良いから、一部の女子に嫌われていたが、ボクが彼女を
ドクドクと自分の中から黒い何かが溢れてくる。
「碧唯ちゃんがこんなひどいやつだって知ったら、肇君もきっと目を覚ますと思うの」
煩い
「だから言ったの、碧唯ちゃんがやってきた悪いこと全部」
うるさい
「わ、悪いことねぇ。一体誰に言ったんだい?」
ウルサイ
「そんなの決まっているわ、肇君よ…」
あぁ、彼ってそんな名前だったのか。そういえば今まで自分の事だけで彼のことなんて知らなかったな。気休めに、違うことを考えたりした。
震えそうなこえを押し殺して、感情を殺して…漏れないように…
「ほら!謝れよ!!!!」
「早く謝って!!!!」
感情を殺して、殺して、殺して…
「謝ってよ!!!!!!」
コロシテ、コロシテ、コロシテ
「卑怯女!!!!!!!」
一人の男子が、足元にある砂利をつかみ取り投げてくる。
顔に石があたる、目に砂が入る。
殺して、コロシテ、ころして…
「この怪物!!!!!」
殺して、コロシテ………
「コロシテヤル………」
そして、碧唯の中でナニカが砕け散った音がした。
§
「アハハハハハ!!!!!!」
土砂降りの雨が降り注ぐ中、大声を上げて
周りには、血の海が広がっている。
その赤く染まった水たまりの中に立ちすくむ。
ざまぁ見ろという感想しか湧かない。
言葉を発しなくなった
ここまでくれば気づいてしまう。自分は、どうしようもない程の邪悪だと。ボクは彼と対極をなす位置の存在だと。
「ハァハァハァ」
笑い疲れてその場にしゃがみ込む。
浮ついていた気持ちが冷静さを取り戻し、一気に現実に戻される。
そうだった、思い出した。ボクは最低なヤツだった。
今まで、ずっとうまく隠して、自分を誤魔化していたけれど、忘れていたけれど…
人間の本質は変わらない。ボクは人間を傷つけることに悦びを感じるカスだ。
この後、どうしようか…
こんなニンゲンが何体死のうとどうでもいいい。でも、見せたくない相手がいる、バレたくない相手がいる。
だからこのことはバレてはいけない…
しかし、そんな誰もいないはずの空間に、居ていいはずがないのに話し掛けられる。
「うわ~。結構派手にやったな…」
「えっ?」
雨の中、笑っていたせいで、近づいてくる人間に気付かなかった。
顔を上げて見て見れば、そこには一番知られたくない人に…見られたくない人がそこに立っていた。
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