第3話 テスト前日に海に駆けるのはバカの所業
また例の公園へと足を運ぶと、昨日の夜に咲いていた桜はいつの間にか消えていた。
残っているのは雪のように真っ白な桜の花びら。それだけが昨日、あの桜が存在していたことを示している唯一の証拠だ。
「おや?どうやらもう無くなってしまったようだね」
地面に残っている桜の花びらをつまんでみていると、後ろから声が掛けられる。
昨日の今日だ。流石に忘れはしないが、その大人びた言い回しにどうしても違和感を感じてしまう。
所々に子供っぽさを感じるチグハグさ。謎だ
「まあ、吹き出物みたいなものだからな…すぐに消えてしまうんだろ」
「そうだね…でも、都市伝説風に言えば、願いを叶えたから消えた。そんな風にも言えると思うけどね?」
「都市伝説?」
「知らないのかい?願いを叶える白い桜の事だよ」
「白い桜の都市伝説…あ~~…。なんとなくは…」
憑依した、元の体の中の記憶を掘り起こしてみると、そんな記憶がぼんやりと存在していた。
「人の願い事を一つだけ叶えるという伝説の桜の事だろう?こんな街中に咲いてたら、伝説じゃないだろ…」
「灯台元暗しというじゃないか。もしかしたら、ボクたちの身近にあるのかもしれないよ」
「まあ、確かに…」
とは言っても、昨日見た真っ白な桜はたまたまこの世界に
有害な奴は、騒ぎどころでおさまらないからな…
「それで、わざわざボクを呼びだして、なんの用かな?」
「遊ぼうって言ったじゃん。でもなんだ?用事が無かったら呼び出したらいけなかったか?」
「そんな…ことはないが…」
碧唯がツンケンするものだからいじわるな質問をしてみると、眉を八の字にして少し困った顔をする。
そんな困った顔もかわ―ゲフンゲフン。
アブナイ、危うくイケナイ扉を開きそうになってしまった。
「とりあえず、どっか遊びに行かない?」
「ああ、構わないよ」
「じゃあ、海行こうぜ」
「う、海かい…」
流石に海に行くとは思わなかったようで、本気か?というような目でこちらを見てくる。
「構わないといったのは碧唯だろう?」
「確かに言ったのはボクだが…ハァ」
常識の範囲内で言ってほしいと言わんばかりの顔でため息を吐く。
「う~ん。海までとなると…自転車か、バスか…。生憎だけどボクは自転車をもってないんだ」
「普通バスじゃね?何?自転車で行きたかったのか?」
「自転車での旅というのもロマンがあるじゃないか」
本当に君はつまらない男だなと呆れた風に溢して、碧唯が話す。
どうしてだろう…なぜか昨日から碧唯にバカにされているというか、なめられている気がしなくもない。
絶対こいつは俺のことを舐めている。分からせなければ…
「いいか、碧唯。よく聞くんだ」
「はみゅ!?!?」
両手でガシリと碧唯の肩に手を置くと、どこかしら可愛い声が聞こえてきたのだが気のせいだろう。
そして碧唯の顔をしっかり見つめれば、口をパクパクとさせながら、顔を真っ赤にしているのもきっと見間違いだろう。
「ここから、海岸まで15kmあるんだ。例えばそこまで自転車で走ったとすると1時間半かかる計算になる」
「コクコク」
コクコクと頭を振りながら俺の話を聞く
「現在の時刻が4時50分。海に行く時はルンルンでも、帰ってくるときは半ベソかきながら帰ってくることになるんだ。周りは真っ暗の見知らぬ道。時刻は10時を指している。帰ってからやらなくてはいけないテスト勉強。試験は明日の1限。いいか、絶望…なんだよ?」
「分かった。分かったからもうやめてくれ!なんか怖いよ!君!!!」
良かった。これで自転車による被害を事前に食い止めることが出来た…
テスト勉強の気分転換は部屋を片付けで十分。
絶対に自転車で爆走するのは止めた方がいいんだ…
「という訳で…バスで行くぞ」
俺の血走った目に恐怖を抱いた碧唯であった。
§
「なんか、今日波が高いね」
「まあ、海開きはまだまだ先だからな…」
海風を浴びながら波が寄り返す光景を見ているとどことなく、
きっと波が
「久ぶりに海なんてものを見たかもしれいな。さざ波の音がこんなにも気持ちよかったなんて知らなかった…」
柔らかな風がよそぎ、夕日に照らされた
張り付けたような笑みはそこになく、穏やかな表情で海を見ている
二人の間に響くのはザブーンといった波の音やウミネコの声。無言の時間が続く。
数分だろうか…もしかしたら、数時間かもしれない。太陽がとっくに姿を消して一番星である金星が十字に光りだした。
「碧唯、そろそろ帰らね?」
「そうだね…」
悲しそうに、顔をゆがめる。そうだねと言いながらも、ここを動く気配はない。ずっと体育座りをしたまま、水平線を眺めている。
…ったくしょうがねえな。
「……ちなみに明日は新月かつ雲もそれほど無いらしい」
「…?」
突拍子もない情報に首をかしげる碧唯。控え目に言ってとてもかわいい。
「明日も来ようぜ。きっと今日よりも星が奇麗だよ。それにちょうど金曜日だし夜遅くまで一緒に居よう」
「それは!本当かい!?」
途端に顔をきらめかせる。眩しい笑顔が口元にに広がり、歓喜に満ちた吐息が漏れる。食い気味にそう答えた彼女の眼は光がともっていた。
「それじゃあ、明日に備えて帰ろうじゃないか!!」
さっきまでの雰囲気と打って変わって、鼻歌でも歌いそうなほどにルンルン気分の碧唯。
「そうだね…じゃあ早く帰ろうか…」
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