第33話 絶体絶命の選択
相手はデカイ体と長くて重い剣を持っているから、どうしても大振りで小回りが効かなくなるので、できるだけ近い間合いに突っ込んで戦うのがいいだろう。
どうやって飛び込むか間合いを測っていたら、騎士が右手を腰の辺りに据えて、左手を鍔に添えて大剣を槍のように正面に伸ばしている。
こちらの顔の辺りに剣先がちらついており、これでは近寄りづらいじゃないか。
だが、近寄らない限りは手も足も出ない。
なので、再びじりじりと間合いを詰めていく。
基本的にリーチが長い武器の方が有利と言われる。
槍が相手の場合は、叩いて来るのを払うか避けて、突いて来るのを左右に打ち払い、可能ならば踏み付けてでも隙を作って、近寄って斬り掛かるのが定石となる。
だが、相手は槍じゃない、剣だ。
同じ手が使えるのか?
少なくとも踏み付けるのは無理だ。
こちらが有利なのは機動力と小回りが利くことの手数の多さだ。
向こうは重装甲で少々の手傷など無視できて、バカでかい図体と武器なので、
試すのにはちょっと勇気が必要だ。
本来なら全身金属甲冑は熱が籠るから長時間の戦いには向かないので、全力を出せるのは5分程度なんて説もある。
だが、どうせ相手は人間じゃない。
スケルトンだったら、熱なんて関係ないだろう。
それ以前に、筋肉もない骨のくせに力がありすぎるのはズルいだろ。
持久戦になったら、恐らくこっちが負ける。
剣術では三尺、つまり約90cmがお互いの刃が届く距離で、六尺が互いに一歩踏み出せば刃が届く間合いだという。
なので、通常は九尺、3m弱の間合いからお互いの動きを読み合うものだが、巨大な騎士は楽々その間合いに剣を飛ばしてくる。
どちらにせよ、待っていてはジリ貧だ、こっちから突っ込むしかない。
「はっ!」
大剣を避けるように相手の左側を狙う。
「消えた!?」
だが、その瞬間目の前にあった剣先が消えた。
殺気を感じて瞬間的に右に刀を振ると、鈍い衝撃音が響き、手が痺れる。
「!」
慌てて飛び
「あー、西洋剣はあんな使い方できるのかよ、小手があるからってズルいな」
ただブンブン振り回すだけじゃないってことか。
これは面倒になったな。
近い間合いでも戦えるなら、圧倒的にこっちが不利だ。
「しょうがない、イチかバチか仕掛けてみるか!」
右足を大きく引いて腰を落とすと半身になって左肩を相手に向け、刀を右脇に据えて体で隠すようにする。
相手はこっちよりもはるかに高い所に頭があるから、動きを隠すのには細心の注意が必要だ。
まあ、それ以前に目があるのかどうか、あのヘルムだとどんな風に見えるのか分からないけど。
刀を体で隠し、じりじりと近寄る。
相手もまだ槍のように構えており、その間合いにこちらから入っていく。
瞬間、顔面に剣先が飛んできた。
半歩下がってこれを
体を反らして避けるが、ギリギリを刃が掠った。
もう一度剣が引かれ、今度は足元に突きが来る。
「それを待っていた!」
足元を剣が通過した瞬間、騎士の左手を踏み付ける。
剣を引こうとするのを利用して、そのまま前に飛ぶ。
振り払おうとして上がった左肘を蹴って加速、刀を脇構えからくるりと回して刃先を前に向け、ヘルムの隙間へと全力で突き込む。
「貰った!」
刃先が隙間にスローモーションで吸い込まれていき、瞬間目の前からヘルムが消えた。
「何っ!」
刀が目標を見失った直後、曲げた膝が何かに激しくぶつかり、激痛と共に吹き飛ばされた。
「ぬし殿、危ない!」
鈴鹿の声でハッとする。
思わず閉じた目を開くと、地面が迫っているのが見えた。
慌てて頭を抱え込んで前転、左肩が地面に接触してそのままゴロゴロと地面を転がる。
「っっっ……」
左肩から背中に激痛が走るが、大丈夫、生きている。
立ち上がろうとすると、膝も痛い。
だがもたもたしている余裕は無い。
慌てて振り返ると、目の前に巨大な何かが落ちて来た。
「うわっ!」
落ちて来た何かは、地面と接触すると鐘のような重い金属音を立てる。
よく見ると、それは騎士の
刀が刺さる直前に頭を下げてので、こっちの膝がぶつかって跳ね上げたのだろう。
顔を上げると、予想通り騎士のヘルムが外れており、中身がさらけ出されていた。
「そうだとは思ってたけど、中身骸骨かよ」
一抱えもありそうな骸骨が鎧の中に収まっている。
理不尽さに足元に落ちてた
「くっ、重い!」
片手で米袋を持ち上げたような重量がある。
そのままマジックバッグにしまおうかと思ったが、どうやらそんな余裕は無いみたいだ。
巨体からは想像もつかない素早さで骸骨騎士が振り返り、大剣が目の前に突き出され、首筋にピタリと当てられる。
そのまま少しでも押されたら、多分ヒットポイントがまるっと消滅してアウトだな。
威嚇するように頭蓋骨の両目からは、炎が揺らめくが如き真っ赤な光が漏れていた。
そして開かれた口からは、真っ白な煙か、それとも息か分からない何かが吐き出されている。
さて、どうしたものかなあ。
お約束の三択、ここで突然反撃のアイデアが閃く。
鈴鹿が助けてくれる。
どうしようもない、現実は非情である。
いや違う。
向こうはこちらを突き刺そうと思えばできたはず。
なのにやらなかった、なぜだ?
恐らくこの巨大なヘルムを自分が手にしたからだ。
とすれば、ここでやるべきはヘルムを返すか、返さないか、だ。
三択じゃない、二択だ。
返せば相手の防御力は上がるだろう。
この後、倒すのにますます手間が掛かるのは間違いない。
だが、今だってクソのように防御力が高い相手で、しかもこっちの命は風前の灯火だ。
もうちょっと楽な選択肢にしてくれよ!
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