第27話 初心者ボス再び
手帳の通りなら、四階は複数のゴブリンだけじゃなく、魔法や弓矢を使うのも出てくるはずだ。
遠距離攻撃相手は面倒なので、こっちで倒すのも増えそうだな。
四階の通路を進むと、鈴鹿がピタリと足を止めた。
「ぬし殿、ここは見覚えがあるの」
「やっぱりか」
転送事故で飛ばされたのが、恐らくここだ。
反対に行ってたら、階段に出くわしていたんだなあ。
「えっと、お二人はここまで来たんですか?」
紅葉が不思議そうな顔でおずおずと聞いてきた。
そういえば、二人には説明してなかったっけ。
「というか、最初の授業でここに飛ばされたんだ」
「「はい?」」
おー、驚いてる、驚いてる。
「これは絶対に内緒だが、この下にボスも倒して、今は初級迷宮に入っている」
「あそこも弱っちいのしかおらんがの」
「えっマジ? だからそんなに強いんだ!」
史織が妙な納得をしているが、ここでも初級でも全然レベルアップしないし、本当にレベルなんてものがあるのかちょっと疑っている自分がいる。
「あの、もしもですが誰かに話したら……」
「その時は武器は返してもらうし、もう協力もしない」
「絶対に誰にも話しません!」
まあ、もうちょっとすれば、この迷宮をクリアする同級生も増えるだろうから、そうしたら別に構わないとは付け加えておく。
「じゃあ、この武器は……」
「それは初級迷宮で拾ったのじゃ」
「初級迷宮って稼げるん?」
史織の目が$になっている。
「少なくとも、ここの10倍は稼げるな」
「マジ!? 紅葉ちゃん、さくさく進んで初級行こうよ!」
紅葉の手を引っ張って走り出す史織。
「おーい、そんなに急ぐと……」
「うひゃーーー」
言わんこっちゃない。
前から火の球が飛んできて、慌てて逃げ戻って来る。
「魔法とかずっこい!」
「いや、こんなもの、全然効かないぞ」
近くに飛んできた火球を握りつぶす。
「え?」
「うっそー」
二人の目がまん丸になっている。
魔法を受け止めて、
そういや回復手段何も持っていないけど、この辺りはどうなってるんだろうな。
「え、ポーションとか回復魔法があるって授業で言ってたよ」
なるほど、どっちもまだ見てないな。
というか、ポーションなんて序盤で出てくるんじゃないのか?
武器や防具、魔石以外のドロップは見たことない。
魔石以外は持ってたのを落としただけだから、ドロップアイテムも見てないようなもんか。
手帳にはなんて書いてあるのか後で見ておこう。
今は前にいる遠距離型ゴブリンを、二人に倒させるのが先だ。
単純に魔法を使う奴は面倒だから一刀両断して、弓持ちの腕を落としてダルマにしただけだ。
手も足も出なければ、後は殴り放題なはずなんだが、とても嫌な顔をされた。
「ぬし殿、ちょっとやりすぎじゃ」
「あの、武器を奪うぐらいで十分だと思います」
「あれはちょっとないなー」
三人からダメ出しされた。
しょうがない、次は昏倒させる程度にするか。
ハルバードを取り出して、カギ状になった部分でゴブリンの足を引っかけて転ばせ、抑え込んでから攻撃させる。
そのルーチンで四階もあっさりと、20分もかからずに終わった。
× × ×
「さて、次は最下層でボス戦だ」
息を吞む紅葉と史織。
「あの、ボスって強いんですか?」
「弱い」
「え?」
「とても見掛け倒しで弱かったのじゃ」
鈴鹿がニパっと笑う。
「ねえ、紅葉ちゃん、どう聞いても信用できないんだけど」
「はい、それは気のせいじゃないと思います」
「だよねえ~」
二人がこそこそ話しているのが聞こえるが、弱いものは弱い。
多分ちゃんと連携すれば、二人でも倒せるんじゃないかな。
そんな説明をしながら五階に降りると、前と同じように一本道の先にゴブリン改めホブゴブリンがいる。
「む、武器が違う」
前回はハルバードを持っていたのに、今度は薙刀のように大きな刃の長柄武器だ。
多分グレイブとか言う奴だろう。
「チョー強そうな武器持ってる」
「向こうの方がリーチが長そうです」
二人が困惑しているので、同じような長さの武器を持っている相手の戦い方を教えておこう。
ハルバードを手に、一歩前にでる。
ホブゴブリンがグレイブを上段から振り下ろしてきたので、下から攻撃を受け止め、ハルバードの斧の部分で相手の刃の下を巻き取るように
勢いのままグレイブを持ち上げると、ホブゴブリンの両手がバンザイ状態になるので、絡めたハルバードを外す。
本来なら、そのままガラ空きの胸なり喉なりを突き刺すのだが、それだと二人の経験にならないから両手首の裏側と膝を素早く突き刺した。
声にならない悲鳴を上げて、グレイブを落とすホブゴブリン。
グレイブを足で蹴り飛ばし、首元に斧の部分を押し付けて身動きが取れないようにする。
「よし、いいぞ」
二人に合図をすると、しばらく顔を見合わせてから、紅葉が
史織も槍を突き出す。
だが軽く弾かれた。
「あれ、ゴブリンよりも硬い」
「上位種じゃからの。もっと腰を入れて全身で突き刺すのじゃ」
「こう?」
槍を軸に腰を前後にスイングさせる史織。
いや、それは方向が全然違うぞ。
「違うの。もっと、こうじゃ」
鈴鹿が史織の腰や膝に手を当てて、サポートをする。
開いた足の距離が狭いので広く開けさせ、膝を曲げさせて腰を落とさせる。
やや前屈みに槍を持たせて、踏み込むように進ませて体全体で槍を突かせると、感覚を掴んだみたいで浅くだが刺さった。
「あっ、刺さったじゃん!」
その間も紅葉は無言でゴツゴツ殴り続けている。
ホブゴブリンが必死で逃げようとするが、ハルバードを強く押すと動きが止まる。
槍も徐々に深く刺さり始めて、ホブゴブリンが小刻みにしか動かなくなってきた。
ひときわ高くロングメイスを振り上げる紅葉。
「あっ」
紅葉の声と共に、ロングメイスが床を叩いて鈍い音がした。
ホブゴブリンもきれいさっぱり消え去っている。
「……やりました」
「今のがボス?」
「ボスの門番だな」
それを聞いてがっくりと肩を落とす二人。
紅葉が額に浮かんだ汗を手で拭って、息をつく。
二人とも上気したように頬が赤くなっている。
「あの……何か暑くありませんか」
「なんか、ミョーにポカポカするんですけど」
「む、涼しいぐらいじゃぞ」
「何ででしょうか」
「あっつーーーい」
史織がスカートをパタパタする。
目のやり場に困るのでやめて欲しい。
さっきから、何かがチラチラしているのだ。
「あー、見たでしょ」
チェシャ猫のように、いやネコバスのようにと言った方がいいか、とにかく歯をむき出してニヤニヤと笑う史織。
万策尽きた時には下手な言い訳をするよりも、孫子の故事にならって三十六計逃げるに如かず、だな。
グレイブと魔石を拾って、マジックバッグにしまい込むとくるりと後ろを向いてボス部屋の扉に手を掛ける。
「あの、その扉が……」
「ああ、この中にボスがいる。これさえクリアすれば、初心者用迷宮は卒業だ。行くぞ」
「はい」
「あっ、逃げるな」
「ほれ、行くぞよ」
紅葉が後に続き、史織がまだ何か言いたそうだったが、鈴鹿に促されてついてきたようだ。
前と同じように
中の様子も変わらない。
ボスが吠えるのまで同じだ。
「あっ」
「ヤバイヤバイよ!」
ボスの咆哮に、二人が硬直した。
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