第16話 学食と図書館と

 学食の建物は中心に厨房があって、そこから放射状に食事スペースが広がっていて、バッテンに横棒を引いたスターマークのようになっている。

 学食と校舎は渡り廊下で繋がっていて、普通は各学年とクラスに近い場所を使用するようになっている。

 今は上級生がいないから、開いているスペースは新入生用の2つだけだ。

 それでも新入生の半分、200人近い生徒が一斉に集まるので、多少待たされるのは仕方ない。


 B組は学食に比較的近いが、着いた時はすでに行列が出来ていた。

 それでもメニュー毎にカウンターが決まっていて、生徒手帳で清算するだけなので流れは速い。

 廊下に写真と値段が張りだしてあったが、学食は購買食堂に比べるとかなり安い。

 一年生の間は毎日500ポイントの昼食代が支給されるので、全メニューがそれ以下になっているためだ。

 一番高い日替わり定食、カツカレー、大盛チャーハン餃子付きなどで500ポイント、丼物が400ポイント、カレー350ポイント、ラーメン各種が300ポイント台で、そばうどんは200ポイント台となっている。

 500ポイントでカツカレーを食べても、ラーメンライスセットや日替わり定食にしてもいいし、最安のかけそばと月見そばを一緒に頼んでもいい。

 唐揚げやフライドチキンなどのホットスナック系をサイドメニューにしてもいいし、100ポイントのプリン5個だって構わない。


 このポイントは他の店舗と共通なので、昼食を安くあげて余ったポイントを貯めて武器を買うことだってできる。

 恐らく、これはなかなかポイントが稼げない生徒のための救済策でもありつつ、早く自由にポイントが使えるようになって空いている購買食堂などを使わせるための学校の手なんだろう。


 一番人気と書いてあった日替わり定食の列に並ぶが、他に比べて圧倒的に長い列ができている。

 だが、すでにたくさん作り置きしたのが並んでいて、生徒手帳をタッチするだけでトレイごと受け取って、好きな席に移動すればいいので、列がどんどん流れていく。


 受け取ったのを見ると、大盛ご飯に野菜たっぷりの豚汁、大盛キャベツにチキンカツと山盛り唐揚げに目玉焼き、小鉢と漬物と、ボリュームが物凄い。

 椅子に座った鈴鹿の顔が、唐揚げの山で隠れるぐらいだ。

 ただ、味もまずくはないが、昨日食べた購買食堂に比べると一段落ちる感じだ。


 手早く食事を済ませ、空になった食器を戻すと、まだ昼休みは30分以上余っている。


 そうだ、教えて貰った図書館に行ってみよう。


  ×  ×  


「ここか」


「でっかい建物じゃのう」


 鈴鹿がホケーと見上げているが、確かにでかい。


 でかいというか、物凄い圧迫感がある。

 建物の高さは校舎と大差ないのだが、階段を上がった所にある武骨な扉以外は窓が一つもないので、そそり立つコンクリートの壁にしか見えない。

 しかも、普通の建物と違って下側から上に向かって斜めになっているので、まるで中国の城塞都市のようだ。


「ぐぬぬぬぬーーー開かぬぞ、これ」


 鈴鹿が扉を全力で押しているが、僅かに動くだけなので手を貸すと、どうやら分厚い金属でできているらしい。

 しかもそれが一枚だけじゃなく、中にももう一枚あって、更には内側に巨大な閂まであるのでますます城っぽい。

 鈴鹿が苦労するとは、普段はどうやって開けているんだろうか。

 それともここが開けられないと中には入れないってことか?


 苦労しつつも二枚目の扉を開けると、中は意外にもおしゃれだがレトロチックな照明が煌々と灯っており、薄暗い地下室みたいなのを想像していたのとは正反対だった。

 目の前には石造りのカウンターがあって、その上は曲線を多用した金属の柵で仕切られている。

 この構造も普通に思っていた図書館とは大違いで、昔の銀行のようだ。


「何かお探しでしょうか?」


 カウンターの向こうから声が掛けられた。

 司書と書かれた受付プレートの後ろにいるやや年配の女性が、怪訝けげんそうな顔でこちらを見ている。


「あ、はい、初級迷宮の地図やモンスターが分かる資料を閲覧したいと思いまして」


「初心者用迷宮攻略証はお持ちですか?」


 生徒手帳を提示すると表情が和らいで、カウンターの読み取り機にタッチするように言われた。


「あら、本当に攻略しているんですね」


 器用に片方の眉だけを上げて、小さく驚いた表情を浮かべる司書。

 鈴鹿もタッチしようと生徒手帳を手にバンザイしてぴょんぴょんジャンプしているが、カウンターまで届かない。

 脇の下に手を入れて持ち上げ、タッチさせる。


「え、その子も?」


 今度は本当に驚いた顔になる司書に、鈴鹿がむっふーと自慢げな表情を見せる。


 驚きつつも手早く入館手続きをしてくれて、一階の閲覧室、二階の一般書庫と二階奥の初級情報書庫には入れるようになった。

 三階より上と地下は、もっと攻略が進まないと入れないので、興味があるなら初級は早くクリアするように、とのことだ。

 相当に貴重な書籍や上級魔術書なんかもあるらしい。

 魔術書か、ちょっと興味がある。

 男なら、一度は魔法の呪文を詠唱してポーズを取ったことぐらいあるだろう。

 『ママ』の電撃を教えて貰おうとしたが、その時は「まだ早いから」と言われたが、ここで習えってことなんだろう。


 あれ、でも授業には魔法学とか無かったな。

 迷宮学とかそっちの方でやるんだろうか。

 その辺りも調べておかないと。 


 なお、本の貸し出しはしていないので、閲覧室で読まなければならないとのこと。


 礼を言うと、司書がどこかを操作して静かにカウンターの右側の扉が開いた。


 二階に上がると、天井までぎっしりと本が詰まった本棚が、壁際だけではなく何列にもなって並んでいる。

 下手な図書館よりも本が多い。

 本好きには聖地だろうな、ここは。


 本棚の迷路を歩いていると、奥に扉が閉まった小部屋が見えた。


「初級情報書庫は……あれか」


「ぬし殿、こっちの本も読んでいいのか?」


 鈴鹿が一般書庫を見て、興味津々に目をキラキラさせている。


「好きな本を読んでいいぞ」


「本当かや!」


 時間はあまりないから一冊だけだと伝えると、さっきから視線が釘付けになっていたカラフルな背表紙が並んだ一角へといそいそと向かう。

 あそこは……漫画コーナー?

 漫画や軽い小説も置いているのか。


「さて……」

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