第3章(4)
桜子は、病室のベッドに寄り集まっている四人の子ども見つけた。
野沢は七歳から九歳と言っていたが、想像以上に幼く見える。
「見つけたぞ」
そう声を上げた直後、爆発音のようなものがフロア全体に轟いた。
廊下を見なくとも分かった。サカナの襲撃だ。
いずれにしても、子どもを連れて浮上することが急務だ――桜子はそう判断した。
一生はどうだか知らないが、英梨と総一郎がいれば、サカナに後れを取ることもあるまい。
子どもたちは怯えた目で桜子を見ている。無理もない。
怪物の跋扈するこの異空間で、二晩あるいは三晩を明かしたのだ。衰弱しているのは当然のこと、恐怖も心の奥底まで刷り込まれているだろう。
桜子の全身を、うずうずとした衝動が襲う。
この子たちの内側に潜ったら、どれだけ面白いだろうか。
今回の出来事は、どのように影を落とし、どのような形になって、彼らの内側を徘徊するのだろうか。
見てみたい。触ってみたい。自分のこの手でいじくりまわしてみたい。
『そのうち覗くだけじゃ我慢できなくなるわ。今までのように、階層の奥深くまで入り込んで、興味のままにいじくり倒し、最終的に壊しちゃう』
野沢の声が脳裏に響く。
やはり、的を射ているように思える。
桜子は一度、己の欲望を振り払うことを決めた。
「一緒に来い。ここから出る」
子どもたちは、警戒する様子もなく、桜子のそばに寄って来た。怖かった、早く帰りたい、そんな言葉も聞こえてくる。
おそらく、桜子が異形ではなく、人の形であることが、警戒を緩めた大きな要因なのだろう。
人の姿でも、恐ろしいものなどいくらでもいるのに――そんなことを考えつつ、それでも桜子は妙な感慨に浸っていた。
これまで任務に駆り出されるときに、彼女は救出を任されたことがなかった。それは彼女の特性や指向性を考えれば当然のことだ。ともかく、桜子はサカナの殲滅ばかりを担ってきたのである。
子どもたちがしがみついてくる感触を背中や脇に感じながら、桜子は、
――これも悪くはないのかもしれない。
そんなことを考え始めていた。
ベッドには、一人の少女が横たわっている。意識は無さそうだ。
この子どもが、この階層の所有者であるに違いない。
桜子は無造作に、その少女を負ぶった。
そして、しがみついている三人の子どもを、一人は左脇に、二人は右脇に抱える。
「ふふ。ははは」
桜子の浮力をもってしても、かなり無理のある体勢だ。
しかし、子どものもとにたどり着いたのが桜子ただ一人である以上、子どもたちの救出は彼女が一手に担わなければならない。
「いくぞ。離すな」
桜子は泳ぎ始める。
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