第24話 師匠との別れ

「ナーゼがした事の影響って、どう言う意味?」


 俺は、ジャームに言われた事が凄く気になった。



(おまえは、オウゼを知ってるか?)



「聞いた事ない。 誰か偉人の名前か?」



(タント王国で信仰のある神の名前だ。 言い伝えでは500年に1度、現世に人として生まれると言われている。 見た目は可愛らしい女子だが、その魔力たるや凄まじいものがある。 あくまでも伝説の世界での話だがな。 でも、イースの中に、人智を超えた魔力の脈動を感じる。 おまえは男だから、オウゼの生まれ変わりじゃない。 そうなると、陽気の発動に関わった者が怪しい。 ナーゼがオウゼなのか分からないが、一度、彼女と会ってみたいものだ)



「ナーゼは、ムートで唯一良い思い出をくれた人だ。 とても可愛い女の子だった。 俺も会いたい」



(どんな感じの人だった?)



「俺には優しかったけど、他の人からは恐れられていた。 魔法も剣術も飛び抜けて優れていた。 確かに普通の人と違っていたけど、さすがに神の生まれ変わりじゃないと思う」


 神が人に生まれ変わるなんて、あり得ない事だと思った。



(どうやらナーゼは、おまえにコアの一部を与えたようだ。 とても上質の魔力だぞ)



「ナーゼは、自分の何かを犠牲にして俺にくれたのか?」



(おまえは、彼女の力の根源を受け継いだ。 でも、ナーゼに取っては減った分を回復するだけの話だから、何の影響もない)



「ナーゼが困らなければ良いんだ。 安心したよ。 ところで …。 ジャーム、聞いてくれ! 俺は弱かったから、前の国で、シモンに良いようにあしらわれた。 だから強くなりたい!」



(そうか …。 良し! 持てる力の全て使って、おまえを鍛えてやろう! 覚悟して耐えろ!)


 ジャームは、ドクロのような顔を俺に向けて気合いを入れた。



 その日から、俺はジャームの厳しい修行に耐えた。今までなら根を上げるような事でも、歯を食いしばって耐えた。

 最初の頃は、魔術のコントロールが思うようにできず話にならなかったが、それでも頑張っていると、いつしか魔術の上達が顕著になり、剣術より得意になっていった。

 僅か3週間程度で、無詠唱により連続魔法を繰り出せた時は、普段褒めないジャームも拍手して喜んでくれた。



(イースよ。 魔術の上達の速さが素晴らしい。 まさに天才的だ。 俺の弟子の中で、最も優れているぞ!)


 ジャームは驚きを隠さず、俺の事を賞賛した。

 俺は、他に居たと言う弟子の事が気になり尋ねたが、それについては何も教えてくれなかった。



 そんな修行が続いたある日、熱系魔法を放出している時に、それは起こった。

 突然、酷く胸が苦しくなり、思わず膝をついてしまった。

 その時に、不思議な光景が目の前に広がった。まるで、その場面に居るような感覚だ。


 目の前に、ナーゼがいた。


 彼女は暗い岩場の中で、凍りついた人形のように手を上げたまま固まっている。よく見ると、その後ろにナーゼに似た大人の女性の姿が見えた。とても不思議な光景だった。


 ナーゼは、悲しそうな悔しそうな表情を浮かべていた。そして、美しく見開いた目から、涙がスーと流れると、この不思議な光景が消えた。



(どうかしたか?)


 俺は、今見た幻覚のことをジャームに説明した。



(おまえとナーゼの魔力がシンクロしたようだ。 もしかすると、おまえに何かを伝えたかったのかも知れない。 だが、今のおまえの力ではどうする事もできない。 早く強くなる事だな)

 

 ジャームは、吐き捨てるように言った。俺はナーゼの事が心配で、しばらく修行に身が入らなかったが、ジャームに鼓舞されて耐えた。



◇◇◇



 そして5年の歳月が流れ、俺は20歳になった。

 ジャームが感慨深げに俺を見つめている。



(イースよ。 おまえは俺が育てた3人目の弟子だ。 その中で、おまえは最も優秀な弟子だ。 生まれ持った才能と、ナーゼから受け継いだ人智を超えた魔力があったからこそ、ここまで強くなれたのだ。 おまえにはもう教える事はない。 明日の朝、ここを出て自分が思う通りに生きるのだ)



「師匠。 俺は、まだ此処に居たい」



(ダメだ。 出て行くのだ!)


 俺は、ジャームの強い意志を感じ、出て行くしかないと思った。


 そして、覚悟を決めた。



「これまで、ありがとうございました。 この御恩は一生忘れません。 ところで最後に、他の弟子について教えてほしいのですが、ダメでしょうか?」



(ああ、最後の餞別に教えてやる。 1番目の弟子は、ワムと言う男だ。50歳になる。 魔術が得意な奴だ。 サイヤ王国に魔道士として招かれている。 野心家で信用ならぬ男だ。 近づかん方が良い。 2番目の弟子は、マサンと言う女だ。 25歳になる。 彼女は魔術も剣術も得意で、おまえと似ている。 優しくて面倒見が良いから、頼れば力になってくれるだろう。 多分、この国にいるはずだ) 



「俺は、マサンを訪ねて見たい」


 思わず、口から出てしまった。


 それにしても、1番弟子が50歳と言うとジャームは何歳なのか、新たな疑問が浮かんだ。



(おまえが良いようにしろ。 それより、今夜はお祝いをするぞ。 とっておきの酒もある。 あと、この剣をおまえに授ける。 これは魔法の杖の役割も果たす特殊な魔道具だ)


 ジャームから、長剣を渡された。俺は、嬉しくて泣いてしまった。


 そして、その後、2人で肉を食べ、酒を酌み交わした。


 最初に会った頃と違い、今ではジャームの事を父親のように思える。俺に取ってはジャームは唯一の家族だった。

 だから、別れが辛かった。

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