011.レアネームドモンスターとレアドロップ①
夜の砂漠を立っていると、少し先に見かけた巨大なモンスターに「おっ」となって目を見開く。
今日はクエストの帰り道、砂漠のしんとした空気と輝く満天の星空になんとなく足を止めているとそこに見えたのは『ネームドモンスター』の影。
日頃の行いのおかげかなー。
ネームドモンスターはフィールドに稀にポップするレアモンスターで、倒せば美味い報酬がもらえる。
旧来のネトゲーであれば24時間体制で監視する廃人たちに独占して狩られそうなそれは、しかし粘着するほど豪華ではない報酬とVRMMO特有の業者/BOT対策によって見つけられたらラッキーくらいの存在に落ち着いている。
結局インスタンスダンジョンとインスタンスバトルがメインコンテンツだもんね、このゲーム。
ここが旧パッチのフィールドだから、最新パッチで追加されたネームドより報酬が一段落ちるっていうのもあるかな。
つまり幸運のはぐれメタルね、報酬的にはおどる宝石だけど。
んー、どうしようかな。
ネームドモンスターはバトルに参加しているプレイヤーの数によってHPが変動するので、ソロで倒そうと思えば普通に倒せたりする。
だけどまあ、折角だしMMOらしいこともしようか。
一応人集めた方が早く倒せるし。
なんて思いながら、あたしはメッセージを飛ばした。
「アイさん、こんばんは!」
「ノゾミちゃんこんばんは。ふたりも久しぶり」
「こんばんは」
「……こんばんは」
ライドに乗って現れた三人に挨拶を済ませると、ノゾミちゃんが周囲を見渡す。
「それでなにがあるんですか?」
「ちょっと待ってね」
暇ならお小遣い稼ぎしない?って誘いで来てくれた三人にネームドモンスターの説明をする前に、システムウィンドウを操作してメッセージを飛ばす。
「あっ、なにか着てる」
『アルゴノート砂漠/072:114 ネームド【ゴールデンキマイラ】 GT23:00スタート』
飛ばしたエリアチャットは、近隣マップにいる全てのプレイヤーにテキストメッセージとして届く。
具体的には今反応したノゾミちゃんたちみたいに、ピコンとシステムウィンドウの端っこにメッセージが出るかな。
普段は無差別広範囲のエリアチャットなんて使ったら眉をひそめられるけど、こうやってうま味がある場合はむしろ使うことが推奨されている。
まああたしは気分によっては使わないけど。
ちなみに内容は、マップ名・座標・ネームドの種類・開始時刻だ。
特に開始時刻は決めないと、フライングするプレイヤーが出たりあとから来たけど参加できなかったプレイヤーができたりで悲しみを生む原因になったりするので大事。
告知をしてからそんな説明を三人にしていると、さっそく人が集まってきた。
「こんばんはー、座標ここで合ってます?」
「こんばんはー、大丈夫ですよー」
ちなみにモンスターは近づきすぎると察知されて戦闘になるので少し離れた場所で待機している。
「まだ時間までしばらくあるので、ゆっくりしててくださいー」
「はーい」
GT23:00というのは『in Game Time』、つまりゲーム内時間のことで、リアル時間であと15分ほど先の指定。
ゲーム内の時間とリアルの時間はサイクルが違うので時刻や朝夕が一致するわけじゃないんだけど、大体のプレイヤーはこっちの時間を目安に行動するし挨拶もそれ準拠だ。
モニタ越しの旧来のMMOと違って、ログインしたら周囲の風景が完全に昼なのにリアルが夜だから「こんばんは」って挨拶してたら違和感バリバリだしね。
ということで待っている間にぞろぞろと人が増えてきて、誰かが出したキャンプファイヤー(時間限定消費アイテム:結構高い)を囲んで調理師が串焼きバーベキューを振舞い始める。
「かんぱーい!」
普段コンテンツ内でしか他のプレイヤーと関わらないことが大多数なので、ここぞとばかりにお祭り騒ぎだ。
見渡す限りで数十人、報酬目当てじゃなくて他のプレイヤーと騒ぐために来ているプレイヤーもいるかもしれない。
そもそも報酬もそこそこ美味い程度だから、多人数で集まるコンテンツがめんどくさかったらわざわざ来ないだろうしね。
その様子は、チャットがメインコンテンツなんて言われていた時代のMMOを思い出すような空気で、個人的には嫌いじゃない。
他人と関わるのがめんどくさいというプレイヤーの総意によって、どんどん人との関りが薄く遊べるように進化していったMMOにあっても、たまには人と遊びたくなるような気分になることもある。
まあ昔みたいに毎日それを強要されたらやっぱりめんどくさいんだけどさ。
「なんだか楽しいですね!」
隣で両手に串を持ったノゾミちゃんが嬉しそうに言う。
「それならよかった」
アリスちゃんとクロちゃんを見ると、そっちも楽しそうだ。
「なんだか林間学校みたいです」
「わぁ……」
クロちゃんの感嘆の声と共に、打ち上げ花火(消費アイテム:そんなに高くない)がひゅ~~~っと鳴って夜空に咲いていく。
「綺麗ですね~」
「ひまわりみたい」
「うん……」
リアルでも打ち上げ花火は見れるけど、至近距離なのと周りにキャンプファイヤー以外の明かりが存在しない分見やすさは段違いだ。
「それじゃああたしたちも上げてみる?」
「え? そんなことできるんですか?」
「うん、一緒に来て」
流石に人の輪のすぐ近くで打ち上げるのはアレなので、少し離れた先に打ち上げてた人たちの所まで移動して場所を貸してもらう。
「あたしたちもやらせてもらっていいですかー?」
「どうぞどうぞー」
「って主催様じゃないですかー、好きなだけ使ってもらって大丈夫ですよー」
ネームド発見者には一定の感謝と敬意を払うという風習のおかげで、エリアチャットを流した今日のあたしはVIP扱いだ。
みんなノリが良くて良いね。
「それじゃあ三人ともこれ自由に打ち上げていいよ」
システムウィンドウを操作して花火をどさっと実体化するとその物量に三人がわっと圧倒される。
「わあ、ありがとうございます!」
「ただで貰っちゃっていいんですか?」
「すごい安いから大丈夫。1個100ゴールドもしないし」
もはや開発がバンバン打ち上げろと言っているんじゃないかってレベルで安いので、ゲーム内で新年年跨ぎをする時は凄いことになったりならなかったりするほど。
ということで三人を促して花火を選び始めたのを一歩下がって見ていると、さっきまで花火を上げてた人たちの一人が話しかけてきた。
「初々しいですね~」
「そうですねー、昔を思い出して懐かしくなります。まああたしはあそこまで初々しかった事はない気もしますけど」
「私も初ネトゲは大分前なのでもう覚えてないです」
「でも見てると癒されるんですよねー」
「それは間違いない」
そんな風に合意を経て、二人でケラケラと笑う。
「あの子たちはアイさんがこのゲームに誘ったんですか?」
「いえ、最初のIDで一緒になったんです」
「なるほど、それは幸運でしたね」
「そうですねー、おかげさまで栄養を貰ってます」
「あはは」
正直ネームドを見つけるというレアイベントに遭遇した上でそういう気分だったから誘っただけで、あたしから誰かに積極的に連絡を取ること自体が稀なのだけど、それはそれとして一緒に遊べば楽しいこともある。
だから、今日はノゾミちゃんたちを誘ってよかったかな、なんてガラにもなく思った。
☆ネタバレ:次回レアドロップゲット――!
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