第8話 探索、そして夜を明かす。

「これからはどうするつもりだ?」


「この校舎内でも探そうかなってな」


「そうか。三つだけ調べてない資料室があるから、案内するよ」


 やはり調べておいて正解だったようだ。


 探す手間が省けて休む時間も確保できる。勝手にだが、どこか人の役に立ったような気がして嬉しかった。


 「何か見つかったか」


「いや、全然・・・・・・」


 俊也はそう言った。俊也の顔には既に諦めの色が出ているように見えた。


 もしかしてフェイクなのか。


 これだけ分量のある紙類が保管された資料室は、全て時間稼ぎをするためだけに作られた偽造のものなのか。


 はなからここには探し求める宝は眠っていないのか。


 そんな、鳥肌が立ちそうな予感が、僕の脳裏をよぎった。


 二手に分かれて探した僕らは、再び合流し最後の一室に全てを掛けることにした。


 そこに無ければゲームマスターの思惑にまんまとハマってしまった、そんな結果だけが残るのだろう。


「ここだけ妙に広いな」


 恐らく、核となる資料室がここに当たるのだろう。他の部屋に比べ、二倍以上の大きさはあるように見える。


 最後にして手掛かりの存在確率が一番高い部屋だと、僕は思う。


 雰囲気的に何か状況が打開できる何かが見つかるような、そんな脆くて壊れやすい期待が、胸の周りに漂っていた。


 指のささくれの様にカケラが飛び出ている、そんな年季の入った木製の棚が三つ等間隔に並んでいた。


 壁伝いにも金属製のガラス窓が付いた棚があった。


 全員、その大きさに若干の戸惑いを抱えつつも、手がかりの捜索に移った。


 しかしすぐに見つかるわけもなく、僕も的外れだと諦めの感情を抱いていた。


 若干の罪悪感が僕の心をかすめながらも、僕は手を動かしていた。


 そんな折、僕は一枚の紙切れを手に取った。


「これって、メモ……、だよな」


 僕は不自然に区切りをつけながら、そういった。

 

 僕は錆の見られる棚から、それをおもむろに取り出した。


「五月七日。今日クラスの一人の生徒に校舎裏に呼ばれた。その後なぜかボコボコに。なんでだろう……。って書いてある」


 僕はそう読み上げた。


 恐らくだが、これは日記だ。日付と一行程度の呟きのような文章が書かれている。


「手がかりだ……」


「何? これが手がかりだと? 俺には資料の中に紛れた日記の破片のようにしか見えねえけど」


「まずさ、学校の資料室に、なんで日記の破片が落ちているんだよ。不自然すぎやしないか?」


 僕は、自分が感じた違和感を伝えると、司令官はどこか納得した様子で「確かに」と言った。 


 確かにこの不自然に千切られた紙が日記である事は間違いない。内容や書き方から判断すれば、その可能性が一番高いだろう。


 問題はなぜそんなものがここにあるか。


 全てが不合理で、同じ紙類だとしても使われた用途が明らかに異なっているように、僕には見えた。


 そしてこの形態から察するに、一枚で完結するものではなさそうだ。


「手分けをして全て集めよう。そしたら何かが見えてくるかもしれない」


 ミスリードの可能性も否めないが、行動を起こせば何か見えてくるものもあるだろう。 


 その時にまた考えれば良い。まずは行動の指標を決めることが重要だと、僕は考えていた。


 僕の提案に今まであまり乗り気ではなかった 二人も、案外すんなりと納得してくれた。


 何か心の変化でもあったのかと少々驚いたが、足並みが揃った事は喜ばしい事だった。


「んじゃ。今日はこれで終わりだ。また明日、明るくなったら活動開始な」


 方向性もトンネルの半ば辺りまでは、見通しが立った。


 俊也はタイミングを見計らって解散の号令をかけた。


「私たちも行く?」


「そうだね」


 僕らは、あの二人も追随するように教室を去った。


 因みに前を歩く二人は、メガネの女子が川上友花。


 そして金髪の女子が香川紗南。


 話の流れから自己紹介をして、二人の情報を多少は掴んでいた。


 記憶については名前と学年程度しか覚えていないそうだった。


 「こんな所でどうしたの」


 背後から幼馴染の声が聞こえた。


 五段ある階段の丁度真ん中に座る僕は、一向に振り返る事なく、彼女の問いかけに答えた。


「夜空を眺めてた。何かひらめくかもと思ってな」


 澄み渡る空。燦然たる星々。何もかもが現実世界と変わらない。


 しかしこれは狂った人間の創造物。


 満月も散りばめられた大小様々な星々も全てがゲームマスターによって生み出されたもの。


 感動しないように抵抗する僕を嘲笑うかのように、心地よく吹くそよ風が趣深さを運んできた。


「昼間にさ、言ってくれたこと……。嬉しかった……」


 昼間に言ったこと? あー、あれか。でも、何で嬉しいんだろう?


「もう……鈍感なんだから、君は」


 あきは、フグのように顔を膨らませて、僕を叩いた。


 あんまり記憶はハッキリしてないけれど、恐らく、沢山の思い出が現実の僕の心に溜まっているはずだ。

 

 だって、こんな他愛もない時間でさえも楽しく過ごせてしまうのだから。


 そんな僕らに、宝物が少ないはずがない。


 いつからの知り合いかは分からない。


 でも長年堆積した記憶はもう換算不可能な次元にまで到達しているのだろう。


 僕にはその確信があった。

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