第6話 開始
こんな無謀な状態である程度の予想を立ててみるとするか。
まず、脱出するためには、何かしらの方法を探し出す必要がある。
この理不尽なゲームにも何かしらの解決方法があるはずだ。
それを一ヶ月という期間で発見したこと、感じたことを照合して導き出す事が必要になってくる。
ただ、いまいち分からないのが、なぜ僕らが集められたのかと言う事。
一人暮らしなら僕らじゃなくても他は腐るほどいる。でもその中でこの六人が選ばれたのには、何か意味があるはず。
その理由もどこかしらで明かされる場面が来るのかもしれない。
それと、ここに連れてこられた過程で何故か記憶が飛んでいるという事。
思い出そうとすれば激痛が頭全体に広がる。だから、今は放っておこう。
必要に迫られた時に向き合えば良い。幾多ある謎がこの創造された世界において何らかの、手がかりになるかもしれない。
でも最優先は脱出。他のことは出ていった後にでも聞けばいい。
校舎にはあいつらの姿が見えないから、僕らはここから調べることにした。
灯台下暗しなんて言葉もあるくらい、身体に近い場所から調べる事は重要な事。
誰もやらないなんて勿体ない。僕はそんな心持ちでいた。
「どう? 何かあった?」
一階昇降口横の資料室を漁っている最中、あきは僕の方を振り向いて問いかけた。
「……いいや、何も無さそう」
直射日光の影響で、日焼けした紙が山のように出てきた。
特段取り上げるような内容の物は出てこなかった。
しかし調べるべき部屋は未だ沢山残っている。僕には休憩している暇はなかった。
二部屋目。内装には特に差はなく、殺風景な景色が広がっていた。
「マー君、ほんとに校舎内に、手がかりがあるのかな?」
僕は、日焼けで色の変わった段ボールを漁りながら、あきの話を聞いた。
彼女の疑いは未だに晴れず、モヤモヤした物を抱えたまま捜索している、そう僕には見えた。
それでも僕には確固たる自信があった。
「ある、絶対に。何かしらの痕跡がどこかに残っているはず」
「何でそんな事、言い切れるの?」
「ここはあいつの世界。何だってありなんだ。現実世界では有り得ないような事だって、人為的に起こせる」
ここはゲームマスターが望んだ事は全て実現する場所。
あらゆる欲求を満たしてくれる、極上のスイートルーム。
この世界ではなんだってありなのだ。
「でもそれと何の関係が……」
「普通に考えてみろ。こんな廃校にこれだけの資料がある時点で、普通じゃないんだ」
「これはあいつが作り出した、恐らくヒント。これを生かすも殺すも、僕ら次第。だったら、生かす方がいいんじゃないか」
僕は得意げに笑って見せた。
まあ、冷たい目線が視界に入ったのは世の中の道理ってやつだ。
この関係性は特別なものだと、僕は自負していた。心の中身をさらけ出せる心地よさは、何よりも抱いていたいものだった。
「はあ……。キメ顔はともかく、言ってることは正しいかもね」
僕の発言の意図を汲み取ってくれたのならそれで良かった。あとは必死こいて見つけ出すのみである。
もう日暮れが近い。陽も落ち始め、色もオレンジっぽくなってきた。
始まって数時間、未だ携帯に着信履歴も無ければ、自分たちの手柄もない。
この一日が無駄に消費されてしまうのは何としても避けたいが、何しろ全く見つからなかった。
どうしてなんだ、何故見つからない。これだけ資料室を回ってるっていうのに、なぜ・・・・・・。
「一回休憩しようよ」
「んなことしてる暇……」
僕は少しむっとした。
「ねえ、マー君」
彼女は声色を落とし冷静な面持ちで僕に問いかけた。
「私のためにありがとう。でも、始めからそんな調子じゃ、この先持たないんじゃない?」
彼女は立ち上がり、僕の前に来ると、右手を肩に乗せて真っ直ぐ僕の目を見て、なだめるように穏やかな口調で言った。
まるで思春期の母と息子の会話のようだった。
「ああ、そうだな。ちょっと休もっか」
僕には、あきが幼馴染であること以外、何も記憶がなかった。
今まで現実世界でどんな出来事があって、友達に誰がいて、家族がどんな人で。
そんな当たり前の知識が全く無い。
僕は寂しい気持ちになっていた。
もしかすると、それが一種の焦燥感を生み出していたのかもしれない。僕は反省するばかりだった。
そうして僕らは三つの資料室を残して基地へと戻っていく。
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