第22話 帰還

 鬱蒼とした森の中を、注意深くカノンたちは歩いた。

 鳥や虫の鳴き声や、カエルの声が不気味に響いている。

「お母さん、大丈夫?」

「ええ、アデル」


 アデルの母親は、怪我の治った足でゆっくりと歩いている。

 カノンが次の一歩を踏み出そうとしたとき、前方の茂みががさがさと音を立てた。

「みんな、気を付けて! 何かいる……」

 カノンの注意を受けて、アデルとベンジャミンは茂みをじっと見た。茂みから出てきたのは、一匹のゴブリンだった。


「なんでこんなところにゴブリンがいるの!?」

 アデルの母親の悲鳴が森に響いた。

「ゴブリン……町のそばに現れたことなんて無かったのに!?」

 アデルが息をのみながら言った。


「倒すぞ!」

 ベンジャミンが構えて、呪文を唱えた。

「ファイアボール!!」

 ベンジャミンが放ったファイアボールは小さく、ゴブリンを焦がすこともできなそうだ。


「調律魔法……炎よ燃え盛れ!」

 カノンの手から光の粒子が放たれ、ベンジャミンのファイアボールを包み込んだ。その瞬間、火の玉は10倍以上に膨れ上がり、大きな火球となってゴブリンを襲った。

「やったか!?」

 ベンジャミンとアデルがこわごわとゴブリンを見つめている。

 燃え盛るゴブリンは、ゆっくりと倒れ、後には消し炭が残った。


「すげー!」

「ベンジャミン、アデル、早く森を出よう!」

 カノンたちは森の入り口に向かう足を速めた。


 森の入り口についたときには、みんなの息が上がっていた。

「もう、町が見えるね」

 アデルが言うと、カノンとベンジャミンが頷いた。


「お母さん、帰れそう?」

「ああ、大丈夫だよ。みんな、ありがとう」

 アデルの母は、森を出て町に向かって歩き出した。ふと、彼女は振り返ってカノンにたずねた。


「カノン、あなた本当のお母さんのことを知ってたの?」

「……本当のお母さんって?」

 カノンの問いかけにアデルの母親は顔を背けて答えた。


「……なんでもないわ。それじゃ、私は家に帰るから。みんなも寮に戻ってね」

「うん」

 アデルが返事をした。


 帰っていくアデルの母親の背中を見ながら、カノンは口の中で呟いた。

「僕の……本当のお母さん……?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る