15話 エリザベスお嬢様

「で、これがお前の正義かよっ⁉」


 数時間後、車内にて。


「はい、似合っておりますよ。エリザベスお嬢様(笑)」


 その(笑)には、悪意しかこもっていない。


 エリザベスお嬢様こと、おれはドレスの端を摘まみながら、喚いた。


「潜入調査の基本は変装で御座いますよ、エリザベスお嬢様。そして、変装といえば女装で御座いますよ、エリザベスお嬢様」


 そう、女装なのだ。


 しかも、金髪巻き毛のお嬢様で、高貴なドレスをまとっている。


 イギリス貴族のエリザベスお嬢様である。


 そもそも、お忍びでも、イギリス貴族がこんな所に来る訳ねえだろ。


「何で、おれが女装しなくちゃなんねえんだよ! お嬢様なんだから、お前がエリザベスやれよっ!」


「私には、貴女様の執事のアーサーという役目が御座いますので」


「何で、執事に王の名前付けんだよ」


「格好良いからでございますよ」


 白鳥は男装している。執事のアーサーである。


 現役執事のセバスチャンは、車内待機。


「その変な喋り方、どうにかしろよ」


 もう、白鳥はノリノリらしく、役に入ってしまっている。


 少し前まで、いい感じにシリアスだったのに、ぶち壊しだ。


「貴方様こそ、言葉遣いがかなり下品であられますよ。女性らしく、おしとやかに振舞って頂かないと困ります」


「だって、女性じゃねえもん」


 しかし、それにしても、白鳥の演技力はスゴイ。


 元々、美少女だが、男装しても美しい。


 美少年である。


 演劇部に入部しろよ。さらに、モテるぞ。




 日が落ちて、歓楽街のネオンが輝く。


「そろそろ行きますよ、エリザベスお嬢様」


「……ええ」


 裏声だ。自分でやっててかなりキモい。


 おれと白鳥のテンションの差が、外の暗さとネオンの明るさで表されているようだった。


 


 白鳥から受けた演技指導では、声は裏声を出す、喋り過ぎるとバレるのでおれは余り喋らないシャイガールを演じる、顔をよく見られてもバレるので扇子で隠す。  


 ていうか、シャイなお嬢様はこんな所、来ねえよ。


 それでもバレたら、実はオカマでしたってことにしろとのこと。


 こんな恥ずかしい姿は、家族には絶対に見せられない。

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