9話 こんな所に長居は無用よ

「……お客さん、けっこう遠くまで来ましたけど、まだ追いますか?」


 烏丸を追って来るうちに、市外に出てしまった。


 白鳥のでたらめな話によると、おれ達は刑事で重大事件を追っているということになっている。


 中二病だからなのか、白鳥は適当な設定をポンポン言っている。


 多分、この巻き込まれてしまった可哀想なタクシードライバーは、こんな若い刑事がいるかと疑っていることだろう。




 日が落ちてきた。


 家にしては遠過ぎる。そんなに遠距離通学者だったっけな……。


「ここらは治安が悪い地域ですが、本当に大丈夫ですか?」


 どうやら、歓楽街に入ってしまったようだ。


 怪しい店が立ち並んでいる。


 何か、ヤバそうだ。帰りたい。


「そうね、帰りましょう。こんな所に長居は無用よ」


 烏丸の乗った車が歓楽街から出る気配がなかったので、深入りは禁物と思ったのだろう。


 そもそも、こんな所に、家なんてあるのだろうか?




 白鳥の家に戻ってきた。


 タクシーは、料金を受け取ると、サッサと帰っていった。


「今日は準備不足だったわ。今度、また出直しましょう」


「まさか、あんな所に行くとは思ってなかったけど……。まだやんのかよ、尾行」


「勿論よ。準備が整うまで、烏丸君について聞き込みよ」


「あのさ、人のこと、コソコソと嗅ぎ回るのってどうかと思うんだけど。これじゃ、ストーカーって言われても反論は出来ないぞ」


「何よ、私の言う事が聞けないっていうの?」


 睨まれた。


「はいはい、スイマセンでした」




 人に知られたくない事くらい、誰にでもある。


 それを無理に知ろうとするのは、いけないのではないか?


 知らない方が良い事もあるのでないか?

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