19話 高村君はもう手遅れだけれど

次の日、おれ達三人は某有名テーマパーク近くの水族館で、弟たちと昼に落ち合うことになっていた。


「お前、テーマパーク嫌いなくせに、水族館は好きなんだな」


「だって、涼しいじゃない」


「そうか。じゃあ、海の生物で何が好き?」


「わいは、ジンベイザメやな」


「今、目の前で泳いでるやつか」


「そや。サメやのに、獰猛やないとこがええね」


 他の魚と仲良く泳いでるからな。


「私は、ペンギンが好きね。鳥なのに、飛べない所とか、とてもチャーミングだと思うわ」


「それ、褒めてねえよ」


「で、どうでもいいけど、高村君は?」


「どうでもいいなら、聞くなよ。まあ、おれは、イルカだな。あいつら、頭良くてカッコいいじゃん」


「もしかしたら、彼らは高村君をバカにしているかもしれないわよ」


「嫌なこと、言うな。どうせ、おれ達はエサをくれる存在でしかないってことか」


「話は変わるのだけど。高村君って、全然、名前に合った人間じゃないわよね。優秀の秀じゃなくて、優劣の劣を取って、高村劣に改名した方が良いんじゃない?」


 何で、いきなり、おれの名前の話になるんだよ。


 海の生き物談義はどうしたよ?


 というか、こいつはおれの粗探しが趣味なんじゃねえのかと思う。


「高村烈とかやったら、かっこええんやけどね」


 でも劣だからな。


「自分の子どもに劣ってるとか付ける親はいねえよ」


 ちゃんと、願いを込めて名付けてくれているはず。


「まあ、そんな親はいないでしょうけど。……高村君はもう手遅れだけれど、あなたの弟たちは名前通りの、優れた勝者で、恵まれる子になって欲しいわね。高村君は手遅れだけれど」


 確かに、秀才なんて言われたことは一度もねえよ。


「お前だって、全然、和やかじゃねえだろ。美和子のくせに」


 必死の反抗。


「あら、美しいことは認めてくれるのね。ありがとう」


 撃沈。


「でも、まあ宇宙って書いて、ソラって読むよりはマシよね」


「はあ? 突然何だよ。誰か知り合いにいるのか」


 あだ名は「ウチュウジン」とかだろうか。


「最近は凄い名前が多いのよ。光宙って書いて、ピカチュウよ。もう、日本人の名前じゃないわね。これからの日本が心配よ」


「で、親は宇宙にどんな願いを込めたんだ?」


 すごく、まともな願いだったら、その親に土下座してやる。


「確か、宇宙の帝王とかになってくれみたいな感じだったと思うわ」


「ただの中二病じゃねえか!」


「いや、そんなんじゃなかったと思うで……」


 おれ達の目の前をジンベイザメが悠々と泳いでいる。


 何でこんな場所で、日本の未来を憂いているのだろうか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る