第40話 お楽しみ計画♡?
この頃は気温がぐんと下がり、冬らしい季節になってきた。風の香りも秋の面影を消したようだった。
今まではお昼休みになるとベンチへ向かっていたのだが、この季節においては寒くてランチどころではない。そこで最近では、秘密の教室でその時間を過ごすことが多くなった。
「創先輩」
私は窓際の席でカメラをいじくっている先輩の隣の席に腰かけた。
「昼飯は?」
「もう食べたよ」
「はや」
亮とキングは食堂にポテトを買いに行っていてからなかなか帰ってこない。ここのポテトは美味しくて人気だからそんなに手には入らないのだ。
「創先輩って」私は口を開いた。今まで気になっていたことを聞こうと思った。
「どうしてそんなにカメラが好きなんですか?」
その言葉にいじくっていた手を止めた彼がすっと私の方を向く。
「なんでって……」創先輩は少しの間考えていた。「それは、綺麗だからかな」
「綺麗……?」
「綺麗なものを綺麗なまま収めておける。永遠にここにあるんだよ、ずっとここに」
そう言ってカメラを優しく握りしめた。
「なんか、ロマンチックだね」
私が微笑むと彼も同じように微笑んだ。
「撮ってもいいか?のどかを」
おもむろにカメラを構え出したので、ちょっとまってと私は言った。
「永遠にとっておかれるんだから、一番マシなビジュアルにしないとだね」
私は櫛で前髪をとかした。
「別に気にしねぇって。いつものままでいいじゃねぇーかよ、あんま変わらねんだし」
「なにそれ、いつも可愛くないみたいじゃん」
「逆だよバカ。いつも可愛いんだよ」
え……?
考える間を与えさせないように創先輩はカメラを構えた。
「ほら、撮るぞ」
「は、はい」
私はレンズを見る。
もしかしたら顔が赤くなっているかもしれない。一生とっておかれるかもしれない写真がこれになるなんて……。もう、最悪ぅぅぅ。
「綺麗だね」
カメラを下ろしたあとの彼の顔は太陽の光のせいで見えなかった。
真剣な顔なのか、微笑んでいるのか。
*
創side
チャイムが鳴ったのでのどかは帰っていった。それと同時に慌ただしく亮とキングが帰ってきた。
「あれ、のどかは?」と亮が教室中を見渡している。
「帰った」
オレが言うと、彼らは肩を落とした。
「間に合わなかったかー。まあ、しゃーないな」とキングが椅子に腰を下ろして買ってきたポテトを一本食べた。「のどか、あんなに食べたいって言ってたんやけどな……って、このポテトうまっ!」
純斗がキングのポテトを一本盗んだ。
「ねぇねぇ」と優弥が話し出した。その声に全員が彼を見る。
「なんかさ……最後の思い出的なやつ、つくったほうがいいと思う?」
優弥がなにを言いたいのか、オレは痛いほど理解できた。
あの日以来、そのことに関してはお互い触れないようにしていた気がする。でも、それもいつかは話さなければいけないことになることは分かっていた。
海の底のようなどんよりとした雰囲気がどうもオレは嫌だった。
「つくればいいんじゃねぇーの?」
オレはみんなを見渡す。
「別につくりたきゃ、つくればいい。オレは少なからずつくりたいと思ってる。でも、普通な感じにな、普通に友達と遊ぶみたいな感じで。あからさまに最後の思い出感を出すのは避けてぇんだわ。オレたちだけで悲しみに染まったって仕方ねーし。純粋に、のどかと最後に楽しみたい」
これがオレの本心だった。
「それ、賛成」と亮が言った。「みんなでどこかに行こうよ」
「いいね。え、じゃあ旅行とかどう?」
優弥はもうすでにウキウキしている。
「のどかが承諾してくれたらいいんじゃない?」と亮が言う。
「え、亮的には大丈夫なのぉ?」
純斗が亮を見た。
本来ならば亮がのどかの彼氏であるので、その提案について拒否することだってあるはずだ。それなのに亮はその提案に賛成だと言う。そのことが純斗は気になったのだろう。なにも友達の嫌なことをしてまでオレらは楽しもうとなんて考えてない。
「ん? なにが?」
「その……僕たちがのどかと旅行することだよぉ」
純斗は相変わらず指をもじもじさせている。
「なに心配してるんだよ」と亮は笑った。「大丈夫に決まってるでしょ。みんなで楽しもうよ。まあ、ホテルの部屋とかはのどかと二人きりにしてもらいますけどね」
「もちろん、そりゃそうやね」とキングが亮の肩に手を乗せた。
オレらが提案した旅行計画についてのどかに打ち明けたとき、彼女は目を輝かせて喜んだ。まるでその提案を待ち望んでいたかのような反応で、オレは逆に戸惑ってしまうくらいだった。
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