第23話 カップルなのか?

 *


 武side

 

「ういっす」

 俺は友達にあいさつをしながら教室に入った。

 中を見渡すが、のどかの姿はない。

 時計を見るとちょうど八時だった。


 おい……また遅刻するんじゃないよな。

 この前先生にこっぴどく叱られてたのに。

 

「武くん、おはよ!」

「ああ……おはよ……」

 マキが朝からぶりっ子全開で話しかけてきた。

 はあ……うぜぇ。


「ねぇねぇ武くん。今日一緒に帰らない? ね、どう?」

 マキは、自分の席に向かう俺のあとをしつこく付いてくる。


「わりぃ、先約があるんだ」

「え? 先約? だれ?」

「え、彼女」


 俺の言葉に、その場にいたクラスメイト全員が驚いた様子でこちらを見た。


「か、彼女……」

 当のマキは今にも倒れそうだ。


 へっ! ざまあ!


 そんな中、教室にガラガラと入ってきたのは、俺の好きな人だった。

 

「おっ、のどか」

 俺の声に全員が反応してのどかの方を見る。

 誰かが、もしかして……、と呟いた。


「そう。彼女」

 

 そのとき中江マキは失神した。

 マキの取り巻きたちが彼女のまわりに群れはじめたとき、俺はのどかにそばに行った。


 訳もわからず、ただ棒立ちになっているのどかに俺はほほえむ。


「なに、この状況」

 子犬みたいに俺を見上げるのやめてほしい。

 もっと、好きになってしまうから……。


「お前が俺の彼女だって言っちゃった」

「え、は? ええ? 言っちゃった、じゃないよ」

 そしてのどかは俺に一歩近づき、「私だって心の準備ができてないんだから!」と小さな声で叫んだ。


「ぷっ!」

 我慢出来ずに吹き出してしまった。

 やば。かわいすぎだろ。

 本当に彼女だったらなあ……なんて、叶うわけないか。


「なに笑ってんねん」とのどかは口を尖らせた。「私だってやりたくてやってるわけじゃな──」

 

 あまりにも声がでかかったので俺はのどかの口を手で塞いだ。


「黙れよ、うるさい」

 と俺が言うと、のどかは俺の手を無理やり剥がした。


「そっちがうるさいわっ」

「おいおい、彼女らしくしろ」

 顔をしかめながら俺は必死に訴えるが、返ってきたのは、あっかんべーだった。


 俺たち……昔みたいに戻ってる、気がする。まるで、あの中学校時代がなかったかのようだ。


「はあ……」

 俺は頭をかかえた。

 

 これは全然カップルらしくない会話だ。

 ただの口喧嘩じゃんか。

 ま、これも昔みたいでいいか……な?


「なによ、そのため息」とのどかは口をふくらましている。

「今日、一緒に帰ろうな」

 

 のどかは少し考えたあと「いいよ」と答えた。

 本当は、あの人たちと帰りたかったのかもしれない。いつも一緒にいるあいつらと……。


 俺は、のどかと一緒に帰るために昇降口で彼女を待っていた。

  

 昔もよくこうやってあいつのこと待ってたな。幼稚園のときも、小学校のときも。俺たち、仲良かったんだな。本当は中学校でだってそうしたかった……。


 パタパタと走ってくる音がする。この足音はきっとのどかだろう。何百回、何千回と聞いてきたこの足音。


「ごめんごめん! 遅れた」

「何分待たせんだよ」

「いやぁ、これで完璧」と言って、のどかは俺に絆創膏が貼ってある膝を見せた。


「おう。次からは気を付けろよ」

「はいはい」


 さっき、のどかは階段から滑り落ちてひざから血を出した。

 俺が一人で待っていた理由は彼女が保健室から絆創膏を盗みに行っていたから。


 今度こそ一緒に帰ろうと歩き始めたとき、外にあの五人がいることに俺は気がついた。


「のぉどか!」と一人の男がこちらに走ってきた。それにつられて残りの人たちもこちらに迫ってくる。


「のどか、帰ろう」と優等生っぽい男が言った。


「今日は俺と帰るんで」

 俺は少々威嚇するかのように五人の男たちに言う。


「あ、そうなん?」と金髪の男が言った。


「それに……こいつ俺の彼女なんで」

 俺は、そう言った。

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