第18話 みんながいない
私は帰りに学校の近くにあった花屋さん『チューリップ』に寄った。前から気になっていたお店だったので、来れて嬉しいという気持ちもある。それに、チューリップっていう名前、なんか可愛いし。
店の中に入ると、一気に花畑にいるかのようなそんな香りが私の周りを漂いはじめた。すると「いらっしゃいませ」と茶髪の若い男の店員が爽やかな笑顔で言った。
ペコッとお辞儀をしたあと、私はどれを買おうかと店内を歩き回った。
そういえば、おばあちゃん、何を買ってくればいいのか言ってなかったな……。
「何かお探しのお花はありますか?」
さっきの店員は、優しく落ち着いた様子で寄ってきた。
近くで見るとより爽やかな印象を与える。
「あの、なにか、あの……オススメの花とかありますか?」
なに訊いているんだよ、私は! 買い慣れた客みたいなことをっ!
彼はにっこり笑ったあと「ちょっと待っててくださいね」と言って花を丁寧に選びはじめた。
少し待ったあと、彼が持って来たものは『カスミソウ』だった。
「可愛いですね」
私はそれを受け取って言った。
「カスミソウの花言葉が幸福とか、感謝って意味なんです。
「あ……ありがとうございます。じゃあ……これで、お願いします」
玄関の扉を開けたあと「花、買って来たよ」と私はカスミソウを見つめて言った。ありがとう、と言いながらおばあちゃんはキッチンの方から出て来た。
「どれどれ? ……あらァ、カスミソウ? カスミソウってこんなにおしゃれだったっけェ?」と言っておばあちゃんは私の手からカスミソウの花束を持ってキッチンに向かった。
次の日。
昨日五人がいなかったことが気がかりで、今日はいるのかと心配だった。
昼休みの時間、いつものベンチに向かってもみんなの姿がなかったので、私は秘密の教室へ急いだ。
私は勢いよく扉を開ける。
「うぇやっ!?」
近くで筋トレをしていたキングが猫のように飛び上がった。
「の、のどか……?」
窓際の純斗くんは太陽の光に照らされている。
「どうした? すごい顔して」
亮先輩が読んでいた本を閉じた。
「よかったあ……」
私はその場にどすっと座り込んだ。
私は安堵した。
今日はいた。ちゃんといた。
「どうしたんや!? 具合でも悪いんか?」とキングが駆け寄って来た。
「違うよ。ただ……安心したの」
私の目には涙が浮かんでいるだろう。
「安心?」と言って、優弥が不思議な顔をしている。
「昨日、みんないなかったから……今日もいなかったらどうしようって思って」
「そんなことかよ」
奥の窓際にいる創先輩が外を眺めながら言った。
「重要なことだよ!みんないないと、私、頑張れないから……」
みんなの顔を見た瞬間、暗い洞窟に温かい火の光が見えたときのように、よかったって安心感が心の中に広がった。
もう私は、五人なしでは生きていけないよ。
「そんな可愛いこと言うなって」と優弥先輩が言った。
*
優弥side
「そんな可愛いこと言うなって」と言って、僕は誤魔化した。
だって、カバンに入り忘れた……だなんて言えないからさ。
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