第13話 のどかの家♡?


 

 のどかside



「今日のどかの家に行くんだけど、みんなも行く?」と亮先輩がみんなに向かって尋ねた。


「え!? なんで行くん?」

 キングが驚いたようにベンチから立ち上がった。


「亮先輩に勉強教えてもらおうかなと思って」


 私がそう言うと「行くっ!」と優弥先輩が大きい声で言った。創先輩は、行くか、と渋々立ち上がり、結果的にみんなで私の家に来ることになった。


「ただいま」

 私が玄関のドアを開けて家に入ると、おばあちゃんがキッチンの方から出て来た。


「おかえりィ。あら、お友達? まあ大勢ですことォ」

「勉強教えてもらおうと思って。いいでしょ?」と私が訊くと「どうぞどうぞ、上がって」とおばあちゃんは玄関に散らかっていた靴を綺麗に整えた。

 

 みんな元気よくお邪魔します、と言って家に上がった。


「こんな大人数、大丈夫?」

 亮先輩が訊いてきた。


「大丈夫大丈夫! 無駄に広いんだよね、この家」

 私がへへへと苦笑する。


「ねぇ、ちょっとトイレ借りてもいい?」と純斗くんが言う。


「あ、いいよ。トイレはそこの、右……え……?」

 

 私の身体と脳は停止した。そして、何で分かるんだい?という疑問に体中が埋め尽くされた。


 純斗くんは、私が場所を言う前にトイレがある場所へ向かって行ったのだ。

 べつにショッピングセンターではないのでお手洗いのマークなどは付いていない。初めてのはずなのに……。


「うわ!庭きれい」という優弥先輩の声で我に返った。

でしょ?」

 その言葉に創先輩がびくりと肩を跳ねらせた。


「だ、大丈夫?」


 笑いながら私が創先輩に訊くと「おう」と彼は意識がないような返事をした。「この名前ややこしんだよな」



 私の部屋に五人が入るとやはり少し窮屈そうだった。

 六人分の体温のせいか部屋の温度が高い気がする。それとも私が緊張して暑くなっているだけ……?


「ぼくちゃん、中庭に行ってくる」と優弥先輩が言った。その声につられてキングと純斗くんも部屋を出ていった。


 創先輩はベッドに腰かけ、カメラをいじくりっていた。カメラに集中していて周りの音など全く気になっていないようだった。


 私が勉強机に向かうと、亮先輩は近くにあったイスを持ってきて私の隣に座った。



「で、教えてもらいたいとこってどこ?」

 彼が机の上で腕を組んだことで私との距離がぐんと縮まった。


「えっと……数学なんですけど……」

 私は急いで参考書を開いた。

 緊張のせいか少し指が震える。平然を装い、ペラペラとページをめくる。


「ここです」

「余弦定理ね。たぶん、ここは公式に当てはめるだけでいいんだと思うけど……あっ、これ、ちょっとめんどくさいやつだね」


 解いてみるからちょっと待っててと言うので、私は特にやることもないので亮先輩を見ていた。


 亮先輩は参考書に集中している。人が一生懸命に取り組んでいる姿ってなぜこんなにも惹かれるのか。はたして、これは亮先輩だからなのかな。それにしても本当にかっこいい。私、完全に見とれてしまっている。


 まっすぐな瞳に、シャーペンを持つ手、そしてシャツを捲っているために見える腕──。


 ダメだよ、こんなの。彼女だったらどんなにか幸せだろうなんて考えてしまう。いくら多感な時期で恋愛にしか興味はなくても、このビジュアルは反則すぎる。きっと私の目はハートマークになっているに違いない。


 亮先輩は視線を感じたのか、目線を教科書から私へと移した。

 目が合った瞬間、私は何事もなかったかのように教科書に目線を落とし、そして穴が開くほどにそれを見つめた。


「なにしてるの?」と彼が訊いてきた。


「なぁんにもしてませんよ!どうぞどうぞ、解いてください。私のことなどはお気になさらず」

 必死に誤魔化そうとすればするほど恥ずかしくなっていって、それと比例して体も熱くなる。


「気になっちゃうんだよね……見られてると」と頬杖をつきながらこちらを見てくる。さっきより顔との距離が近い。彼の視線は私の目から徐々に下に流れて唇をとらえた。そしてまた上に流れて再び私の目をとらえる。


 創先輩がいる前でこんなことできないって。

 もう少しで心臓が爆発寸前だったのもあったので彼の肩を押して「もう、集中してくださいよ」と誤魔化した。


 亮先輩はふっと微笑んで再び解き始めた。


 私は周りを見渡してみて見るとそこには創先輩の姿はなかった。いつ部屋を出たのだろう。亮先輩に気を取られていて全く気づかなかった。





 そのころ、四人は庭の縁側の淵に座って話をしていた。


「マジでここって落ち着くよね」と純斗は言う。そして「亮、ちゃんとのどかに教えてるかな」なんて続ける。


「さぁな、亮の魔力を発揮してるんやない?」

 キング言った。


「なにそれー」

 優弥はししおどしに気を取られていて亮の魔力の話などはどうでもよさそうだ。


「誰でも自分のことを好きにならせてしまう力」キングが腕を組んだ。「それに、あいつは無自覚でその力を使っているんや」


「その力なら僕たち全員持ってるじゃん!」

 優弥は背筋を伸ばしてふんと鼻をならす。


「はあ……それだからお前はモテるくせにいつも恋人まで発展しないんだよ」とキングが呆れながら首を振った。


「そこに自分まで入れちゃうところがねえ」と純斗がニヒヒと笑う。


「いやいや冗談だってば」と言って優弥は少し顔を赤らめた。「それにキングは一言余計な。なにが友達止まりだよ。お前も筋トレばっかしているから彼女できないんだよ」


「優弥、ごめんな、昨日も知らない人にコクられたわ」

「キングそれ本当?」と純斗が目をまん丸くしている。


「そうやで」それに、と言ってキングは創を見た。「創も昨日コクられてたやんな」


 その言葉に創は分かりやすく手を止めた。


「まあな」

「創、ずっる」

 優弥は面白くない顔をした。


「あらァ、みなさんここにいたのねェ」

 おばあちゃんが近くに寄ってきた。


「はい、ここにいました」とキングが元気よく言う。


「そうかい、ゆっくりしていってね。はい、これ緑茶と、お茶菓子。こんなものしかなくって申し訳ないねェ」


 おばちゃんは、おぼんにのっていた緑茶と、どら焼きを一人ずつに配った。


「あ、そうだそうだ。みんなにちょっと、手伝ってもらいたいことがあるんだけど」

 そうおばあちゃんは言った。


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