第18話 それは夏の夜が見せた幻
憤然と、ロイヤルルーム前の廊下に飛び出したアネット。
頬を膨らませて、語気を荒げる。
「まったく思いやりがないんだから! オープンのこと平気か? って? ……平気なわけないだろ! そのくらいわかれよ! 普通、あんな男のところに行こうとしたら止めない? 絶対やめろって、それが思いやりでしょ? わたしだったら、家族があんなヤバそうな男に近付こうとしてたら全力で止めさせるのに! それをまあ……わたしが誰と付き合おうが知ったこっちゃない!? そのまま行かせやがって……」
怒りのあまりか、思いが言葉にそのまま出てきてしまっている。
「……そんなにわたしのことどうでもいいなら、やってやるよ……! そ、そうさ……考え方によっては、あの男、オープンの方がわたしのことを真剣に思ってくれてるってことでもあるし……アホのタカアキよりよっぽど見てくれてるわけだしずっと7マシだもん! ふん! ……あのアホ、あとから迎えに来ても帰ってやんないかんな!」
それから、寮の自室にて。
アネットは姿見の前で、躊躇している。
その身に着けているのは、オープンからの贈り物。
黒い革製のぴったりとした服だ。
アネットの体のラインが露わになっていた。
しかもところどころ薄い切れ目が入っていて、素肌が露出している。
特に胸部分や股間部分に切れ目が多い。
「……さ、さすがにこれは……でも、これを着てこいって……」
アネットは今にも零れ落ちそうな自分の胸を抑えながら呻く。
「……な、なんか上に羽織っていけば……人からは見られない……よね?」
王都の裏通り。
柄の悪い連中が、下卑た笑い声をあげてアネットを指差していた。
アネットはそんな連中の前を足早に歩み去り、ようやく待ち合わせ場所、繁華街の広場に辿り着く。
待ち構えていたオープンは、薄ら笑いを浮かべる。
「よく来たな?」
「い、言われた通り、き、着てきた……けど……」
「言われた通り? 違うだろ!」
「ぎゃあ!? 上着ぃ!?」
「誰がこんなもん上に着てこいなんて言ったぁ? その服着た体、丸出しで来いって言ったよなぁ!?」
「だ、だって、こんな恥ずかしい……だ、大体、この切れ目っていうか、穴はなに?」
「あ? これは直接お前のぬくもりを感じられるように空いてるに決まってんだろぉ?」
「ひ……!」
『こ、こいつ肩組んで穴に手入れて胸触って……ひぃ……』
「大丈夫大丈夫、これからはなにがあっても俺がお前を守ってやるからよ」
『ひ……この人大丈夫かな……怖い……な、なにやってんだよタカアキ……さっさと迎えに来いよぉ……』
「じゃあ、俺のお勧めの店、行こうかぁ?」
「……」
「ああ? 返事は?」
「……は、はい……」
そこは場末のボロ小屋にしか見えない。
食事処わんこめし。
看板にはそう書かれていた。
すえた匂いが充満している。
中には大勢の男達。
立ち尽くすアネット。
『な、なにこの人達……怖い、怖いよ……助けてタカアキ……』
「さあ、入ろうぜえ」
アネットの肩をがっしり掴んだオープンが、べろりと舌なめずりして、中へと引きずり込んでいく。
それからしばらくの時が経ち。
「あっ! あっ! あっ!」
「おらっ! おらっ!」
肩に、腰に、乳房に、下腹部にタトゥーを入れられたアネットが、身体を大きく揺らしている。
「アネットちゃん、随分おとなしくなったじゃーん」
「この前プレゼントしたピアスも似合ってるねえ」
「……あんっ、引っ張らない、っで……!」
「おら、ケツあげろ!」
「は、はい……んんっ!」
「アネットちゃん、お口がお留守じゃねえの?」
「ふ、ふあぃ……もごっ、おご……」
「自分からかよ! ふへへ! よく仕込まれてんなあ!」
「うまそうに頬張るねえ?」
「相変わらずでけー乳しやがって……」
「あ、あ、やめ、やめっ……て」
「体はそうは言ってないみたいだぜえ!」
「ひっ、んん……っ……いやあ!」
「もう俺達なしでは生きられない体になっちまったなあ!」
『……タカアキ……どうしてるかな……』
「……なに考えてる?」
「……ふぇ?」
「昔の男のことか? 妬いちゃうねえ!」
「ち、違っ……! た、タカアキはそんなんじゃ……」
「ちっ……お薬飲ませて忘れさせてやるぜ」
「そ、それダメ! も、戻れなくなる! わ、わたし……タカアキが迎えに来てくれるまで……」
「もうとっくに戻れなくなってんだよメス豚ぁ!」
「ああああああああっ!」
◆
何だ今の……!?
俺はたった今フラッシュバックのように浮かび上がった光景に息が止まるかと思った。
なにが起こった?
夢? 白昼夢?
俺の荒んだ気持ちが見せたこうあってほしくない未来の姿……?
それとも……ゲームのバッドエンディング?
なんらかのゲームシステムが新しいルートを構築して、それが今俺に垣間見えたのか?
どういう理由であれが見えたのか、俺には見当もつかないが……。
悪い男に騙される。
場末の町で薬漬け。
底辺生活の末、捨てられる。
姉ちゃんが死んじゃう!
それだけで、俺を動かすには十分だった。
俺は急いで姉ちゃんの後を追うため、ロイヤルルームを飛び出した。
姉ちゃんがオープンにめちゃくちゃにされる前に、俺が絶対に……止める!
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