#312 道端のアレ

 おいおいおい……勘弁してくれよ。これからバイトに行くって時に、最悪なモンに出会っちまったよ……アレは絶対にアレじゃねえかよ……。


「はあ〜〜〜…………」


 特大ため息が出る。いや、だってよ……これからバイトだぜ? 労働に勤しむんだぞ? なのに気分が一気に下げるような出来事起こるなよ……。

 俺がバイト先に行くには、この一本道を通るしかない。もちろん、他の道もあるが、それは一旦戻らないといけないし、回り道する関係上かなり時間がかかる。この道から行くのが、一番時間がかからないのだ。

 今から別ルートなんて行ったら、遅刻確定。時給が減る。

 俺の気分をどん底へと突き落とした『アレ』は道の真ん中にある。距離を取っているから明確に視界に収めていないし、認識もしていない。つか、したくない。けれどわかる。アレは間違いなく、昨日見た蛇。昨日もバイトだった俺はこの道を通ってバイト先に向かった。その時、道の端の草むらにシュルルルと音を立てて逃げる蛇を見たのだ。

 だから、それが道の真ん中で動かずに伸びているとなれば、もうソレしか考えられない。時々通る車にやられたのだろう。いや、車のタイヤの位置的になんで真ん中? と思うが、きっと少しは動けて真ん中に行った時に力尽きた……と思われるが正直そんなのどうでもいい。今はいかにしてアレを避けてこの道を通るかだ。


「……最悪な気分」


 これはしばらく引きずるだろう。なんならバイトを休みたいくらいだ。

 いや、蛇の死体を見たから休みます、なんて許される理由ではないだろうけど。

 とにかく、俺はソレをなるべく見ないように、まっすく前を見ながらペダルを漕ぎ始めた。



 しかし、人間とは見たくないものほど興味を引かれる生き物。

 視界の端でソレをすこーし見てしまう。

 頭では「やめろ!」「バカ見るな!」「後悔するぞ!!」「グロいから!!」と警告しているが、それを無視して目が動く。

 そして──。





 ──ただのロープだったと、その正体に気づく。




 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。


「ロープかよ!! よかった死体じゃなくて!! ホントよかった!!」


 ちっとも良くねえけどな!!

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