#301 世界の頂点に立つ男

 とある男がいた。

 男はとある超能力を持っていた。

 相手に『恐怖』を与える能力。呼んで字の如く相手に『恐怖』を与える、ただそれだけの、とてもシンプルな能力だった。

『恐怖』を与えられた人間は、決して男に逆らうことができない。男の姿を見るだけで恐怖し、足が震え、汗が止まらず、声が出ず、逃げることしかできなくなる。

 男はこの能力を、世界を正しく回すために使った。

 マナー違反者、犯罪者、迷惑客、迷惑配信者、そういった『悪者』にだけ自分の能力を使った。

 男は言う。


「これはね、神に選ばれた僕の仕事なんだよ。この世界は正しいものがバカを見る世界だ。正直ものはバカを見る、なんて言葉があるくらいにね。邪な者、卑怯者がまるで成功者として世界にいる。だから変えたいのさ。正直者、正しく生きている者が報われる世界に」


 男は世界を変えた。

 男の望み通り、正直者が報われる世界になった。

 男は決して抑圧をしない。裁きを下すのは、男だけ。男を真似して制裁をしようとした者には、男が制裁を加える。

 この世界を管理していいのは自分だけなのだ、と。



 男は世界が狂わないように最大限の注意をしながら世界を管理した。

 やがて、世界は──


「滅亡なんてさせない。この世界はもう間違えない。僕が正しく、清く、導くんだから」


 世界は、正直ものだけしか生きることのできない世界となった。

 それは、正しい世界なのだろうか……。

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