#283 残り0秒

 ポスっと音を立てて、ボールがネットを通過。

 急いで仲間がボールを手にカード外へ移動。

 相手はオールコートディフェンス。なんとかボールがコート内の味方の手に渡る。


「残り5秒!」


 ベンチにいるメンバーの声が、残りのタイムを告げる。

 スコアは86対84の2点差でこっちが負けている。今ので逆転されたのだ。

 第4クォーター残り5秒。

 まだ、まだワンシュートは打てる。

 オールコートディフェンスをかわしながら、ボールがハーフコートを超える。


「4! 3! 2!」


 カウントダウンが始まる。

 ボールは俺の手に渡った。

 スリーポイントライン。勝つにはこのシュートしかない。決めるしかない。

 構え、撃つ──直前、相手ディフェンスがまあに来るのがわかった。


「1!」


 俺は──上げたボールを下げた。

 フェイントだ。


「0!」


 ──しかし、ブザーは鳴らない。

 なぜなら、タイムは「0.9」を刻んだのだから。「1.0〜0.1」このコンマ以下のタイムがまだ残っている。

 叫ばれた数字が「0」だからだろうか。ディフェンスの反応が遅れた。

 俺のシュートはディフェンスの手を超え、綺麗な放物線を描いて、ゴールネットを揺らした。

 ブザービートだ。

 勝利の歓声が俺たちのベンチから上がる。

 相手はしばらく呆然としていた。

 俺の視界にカウントダウンをしていたメンバーが映る。そいつは、「してやった」といった表情を浮かべている。

 まったく、あいつ。いつになったらしっかりカウントダウンできるようになるのか。

 ま、今回はさらに助かったんだけど。

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