#260 それは至ってとても簡単なお仕事

 昼休みを知らせる鐘の音が聞こえた。

 午前中の仕事が終わりを告げ、僕は一緒に作業をしていた先輩の後追って食堂へと向かう。


「どうだ? 仕事には慣れたか?」

「はい……」

「その割には何か悩んでますって顔だな」

「…………」

「話なら聞くぜ」

「ありがとうございます」


 僕がこの仕事に就いて3ヶ月が経った。途中入社の僕は早く仕事に慣れようと、初日から気合を入れて出社した。

 んだけど、


「なんか、本当に簡単な仕事だなって……あ! すみません! 仕事に簡単なんて言っちゃダメですよね」

「はははは。気にするな。ここにいる俺を含めてみんな思ってるよ。この仕事は簡単だって。お前だって、求人に書かれていた『簡単な仕事内容』に惹かれて入ったんだろ? よく疑わなかったな」

「疑いましたけど、それどころじゃなかったので」


 本当にここの仕事は簡単だ。

 最初は嘘だと思ったけど、当時の僕は何振りかまっていられない状況に追い込まれていたので、応募する内の一つとして履歴書を送った。そしたら通って、気づいたら内定が決まっていた。


「ま、俺はあまり気にしないけどな。楽に稼げる仕事なんて、これ以外はないんだからな」

「ですよね……」

「つまり、お前は仕事が本当に簡単すぎて驚いてるわけか」

「まあ、そんなとこです」

「贅沢な悩みだね〜」

「だって……ゲームするだけですよ? 今回は体育館ステージに集まったぬいぐるみを叩いて飴玉にするってゲームでしたけど、この前は廃墟で襲ってくるゾンビを撃ちまくるゲームでしたよね。正直なんでこれが仕事って言えるのかが不思議で」

「仕事でゲームできるんだから最高だろ。っと、それより見ろよ。今月また死刑が執行されるみたいだぞ」

「なんか、執行するスピード上がってきてますよね」

「だな。ま、俺たちには関係ねえけど。それより昼だ昼」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る