#115 美味しい秘密
「……召し上がって、ください……」
「うん……」
彼女が見守る中、俺はゆっくりとスプーンを口に運んだ。
スプーンに乗っているのは、俺の大好物であるカレーライス。
そう、俺は昔からカレーが大好きだった。中でも辛口が好きで、有名なカレーのチェーン店でも必ず辛さレベルを上げて注文するほどだ。
そして今日は彼女であるメイが作ってくれたカレーを食す日。料理が苦手だと自負しているメイが作ってくれたカレーライス。彼氏である俺のために、一生懸命作ってくれたカレーライス。食材を切るときに指を切ってしまったのか、絆創膏が巻かれている。
そんな、頑張って作ってくれたとわかるカレーライス。
でも、俺は好きなものにこそ厳しい。だから、このカレーライスがもし、俺の口に合わなかったら、俺はきっと誤魔化せない。たとえ誤魔化しの言葉を口にしても、メイはすぐに気づく。なら、本当のことを言うべきだろう。それがメイを傷つける結果となっても。
どうか、美味しいことを祈りながら、俺はカレーライスを食べた。
「──!?」
「──!!」
俺は目を見開いた。
メイは怯えたように肩が上がる。
ゆっくりと、味わうように咀嚼し、飲み込んだ。
「…………」
「…………」
「……うまい」
「……!! ほ、ほんと!?」
「ああ……めっっっちゃうまい!!」
びっくりする。
あれだけ料理が下手だと自負していたのに、食べてみたらめちゃくちゃ美味しいじゃないか!
「辛い! 辛いけど……うまい!!」
「うん! 辛口が好きだって言ってたし、よくカレー屋さんでもすごく辛いの頼んでたでしょ? だから、思い切ってかなり辛口に味をつけてみたの!」
「うん! だからだよ。辛くて美味しい。めっちゃ好みの辛さに仕上がってる!」
口の中に入れた時、最初は不思議な味と風味が広がってくるんだけど、それを追い抜くように辛味と旨みが月出てくる。
これはうまい……。
「どうでしょう?」
「正直、カレーライスなんて間違えようがない料理だから期待してない部分がありました」
「正直!?」
「でも、無難なカレーをここまでうまくして出してくるとは思わなかった。脱帽です」
そういうと、メイは満足行ったのか「ふ、ふふーん!」と腕を組む。
「しかし、ホントよく頑張ったな。包丁で指切った時痛かったろ」
俺も料理を始めた頃よく切っていたらからわかる。あれって結構痛い。
「……うん、すごく痛かった。でも、美味しいカレーを食べて欲しかったから」
「そっか。ありがとう」
「うん! それに──」
「ん? なんか言った?」
「……やっぱり隠し味はお母さんが言ってた通り『愛』だって!」
「だな」
うん。愛か、無難だけどそれがやっぱりそうだよな。
うん。それにしても辛味の前にくるこの不思議な味はなんだろ?
「指切った時の血が入っちゃったけど、でもそれって私の愛たっぷりってことだよね。ふふっ、だから美味しいんだよね」
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