#113 コンビ

 それはとある小学校にいる、とあるコンビ。椅子と机の何気ない日常の会話である……。



 帰りの会が終わり、生徒たちはみんな学校から去っていく。

 教室内は夕陽に照らされ、机と椅子たちがオレンジ色に輝いていた。

 そんな中、ひと組の机と椅子。机が疲れ切った椅子に声をかける。


「椅子ちゃん、今日もお疲れ様」

「机くん……ありがとう」


 この机と椅子は出会ってから長い間、ある男子生徒に使われてきた。

 その男子生徒はこの教室内で、言ってしまえばやんちゃな男の子だった。


「でも、今日はほんとひどい。何よ、いきなりあたしを引っ張るなんて。おかげで足の裏思いっきり擦ったのよ! 痛いのよ!!」


 小学生なら誰もが一度はやったことがあるだろう。座ろうとする人をころばせるために、椅子を思いっきり引くこと。それに対し、椅子ちゃんはとてつもない怒りを感じていた。


「ただでさえ立つ時、座る時、引きずられるんだから!!」

「あははは、その気持ち僕もわかるな」

「あなたは掃除の時だけでしょ! あたしに比べれば頻度は少ないじゃない!」

「……そうだけど、掃除の時は僕君を乗せてるからな」

「何よ……あたしが重いって言いたいの!?」

「そ、そうじゃないよ」


 机は思った。

 今日の椅子ちゃんは結構荒れている、と。


「あんたはいいわよね。あたしはあいつの体重に苦しめられるけど、あんたは違うもんねぇ。ほんと、あいつ最近食べすぎなのよ。恰幅が良すぎるのよ。重いのよ。少しは痩せなさいよ」

「仕方ないよ。ほら、育ち盛り? っていうし」

「おならは勝手にするは、足であたしを引くはどかっと乗ってくるわ! 汚ったない靴下で乗るわ! あたしは座るもので立つときに使う台座じゃないのよ!」

「まあ落ち着きなよ」

「うっさい! あんたはいいわよね! あたしより楽な思いできて!」


『楽』。その言葉に机も少しだけイラッとした。


「……あのね、僕だって楽じゃないよ。椅子ちゃんと同じように人に乗られるし、掃除の時は持ち上げてくれないから足が擦れるし、寝てる時涎垂れてくるし、最悪なのは落書き! なんでノートに書かないかな!? なんで机に直接書くのさ! ああ! あれもあった! 牛乳! この前牛乳こぼした! そのせいで匂いが取れなかったんだから!」

「あー、あの時のあんた、臭かったわ」

「言ったな! 今、僕がすごく傷つくこと言った!」

「いいじゃない! いまは匂わないんだから! 大体落書きだって拭けば取れるでしょ! あんたより体重がダイレクトに乗るあたしの方が大変よ!」

「いいや僕だね!!」

「あたし!」

「僕!」

「あたし!!」

「僕!!」

「あたしよ!!」



「「どっちも大変だわ!!」」



「…………ごめん、そうよね。あんたも大変よね」

「ううん、こっちこそごめん。言いすぎた」

「全く、長い間コンビ組んでると、こうやって言いたいことも言えるのね。気が少しだけ楽になるわ」

「僕もだよ。でも、当たり過ぎはごめんかな」

「善処するわ」


 机と椅子。

 小学生だけでなく、中学生、高校生、さらには大人になっても人間が使用するコンビ。

 彼らは人間に使われ、さまざまのことを経験する。

 しかしそれらは机と椅子コンビによって経験する。

 だからお互いが辛いのもわかる。

 明日もまた、小学生たちはやってくる。

 こうやって愚痴を言い合って、気分を晴らして、明日もまた頑張る。

 そうやって今まで頑張ってきたのだ。




「せんせー! おれ、この机と椅子小さくなった!」

「そうか。そうだな。そろそろ交換するか」


 だが、突然別れがやってきた。

 子供達の成長は早い。

 今使っている机と椅子では高さが合わなくなってくる。そうなった時、子供達は今使っている机と椅子を交換することになる。

 問題は、交換後、コンビだった机と椅子が離れ離れになることがあるということ。


「椅子ちゃーん!!!!」

「机くーん!!」


 離れ離れになった机と椅子が再開することはほぼない。

 そんな絶望を抱きながら、空き教室へと移動させられるのだった。

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