#73 暗殺者

 とある男がいた。

 男は暗殺者。コードネームは『k』。音を立てることもなく、標的ターゲットを暗殺する仕事人であった。



『k』はとある酒場に来ていた。そこで一杯やるのは、一つの仕事を終え、激った心を落ち着かせるためのルーティンだった。

 ウィスキーを飲みながら、心を無心にしていく。暗殺者として活動している『k』だが、やはり人を殺めることに関してのストレスは強く感じている。そのストレスとゼロに戻すために、こうして心を無にしていくのだ。リセットをかけることで、次の仕事へ移行する。

 そんな時、『k』の横に別の男が座ってきた。


「隣、いいかな」

「……どうぞ」


 男の顔を『k』は知っていた。当然だ。男とは古き中なのだから。男のコードネームは『s』という。『k』と同じ暗殺者。同世代にして同じ師匠に弟子入りした身。無精髭が目立つ男だった。

 隣に座った『s』はカクテルを頼むと、無言で飲み続ける。『k』のルーティンに配慮してのことだった。

 しばらくの時が過ぎ、『k』のグラスがからになった時、『s』が声を発する。


「久しぶりだな」

「……そうだな。久しぶりだ」

「最近はどうだ? 調子や仕事、プライベート諸々」

「……まあまあだ」

「そうか」


『s』がカクテルを一口、飲み干した。


「師匠のこと、聞いたか?」

「……ああ」

「そうか……お前はどうする?」

「……決まっている。仇を取る。あの偉大な師匠に恥をかかせたんだ。許すわけがないだろう」

「相手は難敵だ。一人で行くきか?」

「……そじゃないからここにいる」


『k』は『s』の顔を見る。『s』はニヤリと笑っていた。答えを初めから知っていたように、そしてどこか安心したように。


「なら、久しぶりに組むか」

「……そうだな」

「よし、なら決まりだな。詳細は後日決めよう」

「……ああ」


 こうして『k』と『s』は手を組んだ。

 全ては自分たちを育ててくれた師匠の仇を取るため。師匠は『U』と言う人物にとても大きな恥をかかされたらしい。その人物を突き止め、仇を打つのだ。

 あの師匠が恥をかいた、となると敵はかなりのやり手だ。正直、今の自分たちが太刀打ちできるか不明。しかし、たとえ命と引き換えになっても、師匠の歴史についた黒を削除する。そのために、二人は動いた。





 しかし後日『U』と言う人物が師匠の孫であることが判明。

 そして孫との遊びで、二人もまた自身の経歴に黒がついてしまうのだった。

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