#05 正義のヒーロー

「おめでとうございます! 今日からあなたは『正義のヒーロー』です!」


 そう言われたのはいつだったか。

 あの時のオレはヒーローに憧れる普通の少年だった。

 ヒロインのピンチに颯爽と駆けつけて、悪者を倒して去っていく。それが何度か繰り返され、やがてヒロインと恋に発展していく。

 そんな『ヒーロー』に憧れを抱いていた。

 けど、世界の危機なんてなくて、世界を救う力なんてなくて、『正義のヒーロー』は虚像の存在で、自分が過ごす世界には存在しないものだと思っていた。

 それなのに、ある日突然目の前に現れた少女からそんなことを言われたら、もう心躍らせるしかないじゃないか。


『今日から「正義のヒーロー」だ』と。


 憧れていた存在になることができる。

 オレは二つ返事で承った。

 ──オレはヒーローになる。あの憧れたヒーローに。これから弱い人たちを助けるんだ!


「それでは『正義のヒーロー』として最初のお仕事です! 最初のお仕事はこのターゲットを殺すことです! 銃でも刃物でも、その方法はなんでも構いません!」

 ──え?

「この人は数多の人を騙して、その人からお金を奪った極悪人です! さあ『ヒーロー』として正義の鉄槌を!」

 ──は?

「安心してください。あなたは『正義のヒーロー』ですから、決して罪には問われません。あなたの行いは正しいのです。だって悪者を倒す『正義のヒーロー』なのですから!」

 ──え? 人を、殺すの? ヒーローなのに?

「何を言っているのですか? 極悪人を倒すのが『正義のヒーロー』ですよ?」

 ──……。

「さあ、これからたくさんの悪者を倒していくましょう!」


 オレはその時初めて銃の引き金を引いた。

 次のターゲットは死体を見たくなくて、毒殺を選んだ。

 その次は、直接手を下さず、他人を使って始末した。

 どんどん悪者を倒していった……。



 ☆★☆★☆★



 あれからオレは引き金を引き続けた。

 オレはいつまでこの引き金を引き続けるのか。

 オレはいつまで『正義のヒーロー』であればいいのか。


「さあ、次のターゲットはこの人です!」


 オレは……ただ、ヒーローに憧れてただけなのに……。

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