第3話
******
「あ~~~パトロール、面倒くさ~~~」
わたしは鉛のように重たい吐息をつきながら
――場所は、
15歳の女の子であるわたしが酒場なんて、以前ならば問答無用で追い返されていたはずなんだけど。
勇者のわたしにとって、この場所はいきつけになっていた。
というのも。
今の時代、"勇者"はあまり必要とされていないのである。
だって、魔族との争いは何百年も前に決着がついちゃっているし。
それでも、定期的に勇者が誕生するのは世界の
まあ。時たま、害獣のような人様に迷惑をかける魔物なんかが現れるから、勇者は絶対にいらない、ってわけではないのだけど。わたしの両親も、運が悪く、たまたま人里に降りていた魔獣にやられちゃったみたいだ。聞いた話でしかないので、あんまり実感のないことだけど。
だから、現代において、わたしが駆り出されることは
しかしながら、勇者は貴重な存在。絶大的な力を有する勇者さまがパトロールする地は、治安を約束されたようなものなのである。勇者がその地域にいる限り、わたしの両親のような不幸も起こらないだろう。
だからわたしは、近隣の街の領主さんやらに依頼をされて、周辺の地域を見て回っているのだけど――このあたりは田舎だし、どこまで歩いても
もう、暇で暇で、しょーがないんだよ。
どうせなら、マリアと一緒に散歩がてらデートパトロールでもよかったんだけど……。そんなことしてたら外でえっちしたくなっちゃうだろうし、マリアを魔物との戦いにも巻き込みたくないから、我慢していた。まあ。わたしがついていれば、マリアを
でもね。
そこで行き着いたのが、街で暇潰しをすることだった。
"勇者"として顔が広くなったわたしは……なんと、女の子にちやほやされるようになったのである。
今までは、地味で
でもね。
現在のわたしは。15歳の少女でありながら、凶悪な魔物とも戦うことができる力を持っていて。強い女の子っていうのは、それだけで同性からも
すなわち、わたしは女の子にモテモテだった。
マリアという嫁がいるにもかかわらず、わたしは街へ
わたしが隣町に足を踏み入れるだけで、まるで春が
で、わたしはパトロールを休憩という名目のもと……女の子だけで経営する酒場にお呼ばれしていたわけである。
彼女たちのお店は、お客さんとお酒を飲むいかがわしいものらしいんだけど、さすがに真っ昼間っから営業しているわけではない。
なので、お子様のわたしが来店していても問題はないらしかった。
こんなお店、純情なマリアが目にしたら、
「勇者ちゃん、今日もだらしないわね。ミルクとオレンジジュース、どっちがいい?」
カウンターから声をかけてくるお姉さんは派手なメイクと、薄手のドレスを
「じゃあ、オレンジジュースがいい!」
って、わたしが
すると、店の奥の扉から、出勤前のお姉さんたちがぞろぞろと現れて、わたしの座っている椅子の周りにたむろしてくる。
「勇者ちゃん、今日の見回りはもう終わったの? ほら、これ新刊よ」
「勇者ちゃん、彼女さんとはうまくいってる? 彼女さんばかりじゃなくって、お姉さんとデートもしてね♡」
「きゃ~~勇者ちゃん、今日もかわいーー♡」
もうね、ここが楽園なのか! ってくらい、ちやほやちやほやされちゃうわけですよ。
お姉さんたちは、わたしをギュッと抱いてきたり、腕を胸に抱えたりで、やりたい放題。香水の匂いに包まれて、頭の中がぼーっとしてしまいそうだ。女性って、なんでこんなにいい香りがするんだろうね。マリアほどではないけどね。
でもさ。もし、この場面をマリアに見られたとしたら……浮気認定されてしまうのだろうか?
ううん。そんなことないよね。
だって、愛しているのはマリアだけだし。お姉さんたちとはえっちしているわけでもないし、セーフセーフ。
まあ。おっぱいを腕やらほっぺたに押し付けられているし、お姉さんたちの匂いも全身にこびりついてしまうので、マリアに誤解されないようにだけは気をつけないと、だね……。勇者って、大変なんだなあ。
「ふ~ん……世の中にはこんなことを考えつく人もいるのか……」
わたしは、一人のお姉さんから手渡された本のページをぺらぺらとめくりながら、独りごちった。
本の中身は、やたらと肌色が濃い。平たく言えば、えっちな本である。しかも、女の子同士専門の。
わたしの脳内はピンク色で構成されているんだけど、
だからこそ、わたしはお姉さんたちから知識を授かっているのである。さすがに、
「じゃあ今晩は彼女さんにこれ、してあげなきゃね。後で感想聞かせてよね♡」
「え、ま、まあいいけど……。こんなことして、マリア嫌がらないかな……」
本に描かれている行為は、わたしの想像にも及ばないことで埋め尽くされている。わたしは自分がえっちであると
でも。相手がマリアなら。体のどこを舐めるのだって、
「勇者ちゃんにされて喜ばない女の子なんていないわよ。あたしだって、されたいくらい♡」
「あ、ずるーい。それならあたしもー」
いやいや、誘惑されても困るんですけど!?
わ、わたしには奥さんがいるのに……。
けど、
だって、わたしは女の子好きだし……。
そういえばマリアは"可愛い女の子にほいほいついていっちゃダメですからね"って
「ほ、ほらっ、わたしはパトロールの最中だから! 今日はこのへんで!」
「やーん、もういっちゃうのぉ?」
そんなベッドの中で
わたしは無慈悲になるしかなかった。愛するマリアを裏切らないためには、女の子たちの気持ちを
「また明日くるから……。あ、この本はちょっと貸してもらうね」
わたしはえっちな本を
やっぱり、子どもが入っていい場所ではないのかもしれない。いや。わたしは大人だけどね。えっちだっていっぱいしてるし。
外の新鮮な空気を肺に取り入れて深呼吸して。わたしは次の目的地へ向かうことにした。
別に、目的があるわけじゃないんだけど。
どうせだから、マリアを喜ばせたいし、頼まれていたおつかいも済ませようと思ったのだ。わたしは勇者でもあるけれど、主婦でもあるのだから。おつかいくらいはできないとね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます