10 皇帝陛下のお願い⑤伝説の迷い地のようなところ
「わからないって」
「そのままだ」
皇帝は両手をやや大げさに広げた。
「行った中での反応はまあこうだな」
曰く、その場に着いた。と思ったらいきなり次の瞬間景色が変わっていた。慌てて場所を測定したら離れた場所に移動していた。
曰く、その場をずっと通ってきたはずなのにぐるりと回って元の場所に戻っていた。
曰く、その場に行くといつでも霧がかかっていて一寸先も見えない、遭難の怖れがあって行けない。一度行こうとして長いロープを持って皆で伝ってみたが霧の向こうに着いた時にはずいぶん遠い場所だった。
「何なんですかそれは」
「うわ、それ面白いー」
「……伝説の迷い地ですかねえ」
アルパカタとビートの対照的な反応に対し、レンテのそれは何処か具体的だった。
「迷い地?」
「ああ、学府でそういうものを研究している友達が居たんですが、時々山間とかでそういう場所があるという言い伝えかあるんだそうですよ。友人はそういうのを集めてフィールドワークに飛び出して行きましたが、はて今何処にいることやら」
途中までその人物を呼び出してやろうかと思っていたのだろう皇帝は、最後の一言に肩を落とした。
「そう、そういうところだし、ほら、位置的に調査に繰り返し行くにも費用と危険…… いや、危険と費用がかかるだろう?」
「……今費用の方先に言いましたよね」
「だってそうだろう! 集団で行かねば危険、その上場所が場所だから馬と徒歩にしても相当な食料とか準備が必要、それぞれの専門家が行かなくてはならないけど、専門家ってのもまた貴重なんだ!」
「しかもそのおおもとの希望は陛下のご趣味」
「趣味じゃないぞ! いや趣味ではあるが、絶対大陸横断鉄道はこの先帝国を豊かにしてくれる、私はそう信じている!」
「ええそれは確かです」
レンテもぴしりと言った。
「何しろ帝国は大陸全部を覆っているから広すぎるんですよ。だからそれこそ一般の人々が遠くに出かけるのも一生に一度とかになってしまうんですよね。まあだからこそ旅行家と言う職業も成り立つんですが。だけど鉄道という手段だったら、それを一般の人々にも開放できますよね」
「それだけじゃないな、大量の重量のある荷物を遠くまで運ぶことができる」
トイスもそう口を挟んだ。
「うちの領主様は他の土地でも役立ちそうなものがあるのに、送れないことに結構悩んでいらしたし」
「え、それどういうものなの?」
「香りのいい木材とかもあるよ、マティの好きそうな」
「あらそれいいわね」
「それはともかく、陛下、では私達はそことこの駒の間をしばらく往復することになるんでしょうか? その謎が解けるまで」
「うん、宜しく頼むよ」
あっさり言いやがって、と彼等は一斉に心の中で思った。
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