case3 五十井神社における赤ペンキ怪雨事件について
・五十井(いそい)神社は鳴降市中町7丁目の山裾にあり、事件発生時には宮司一名(以下に記す)が境内にいた。
五十井仙造(70歳男性)
・事件は20■■年7月16日、13:30頃に発生した。
当時、仙造は神社の境内にある手水舎を掃除していた。
手水の水は地下水を使っており、白い水あかがつきやすく、定期的に掃除を行わなくてはいけなかった。
たわしで水盤の石部分を磨いていると、境内の参道のあたりで「バシャッ」という水音がした。
見ると、白い石畳の上に赤い液体が広がっていた。
仙造はあわててたわしを放り出し、現場に近づいた。
先ほどまでは何もなかったのに、ペンキのような不透明の液体が参道の中央から円形に飛散していた。あたりには仙造以外の人間はいなかった。
いまだ乾いていない赤い塗料を仙造は見つめていたが、突然「ゴンッ」と拝殿の方角から音がした。
何かが拝殿の屋根にぶつかり、そのまま参道の方へ転がってきた。
仙造はそれを拾った。
ペンキ缶だった。表面には「水性多用途」「赤」「0.7L」「■■■ペイント」と書かれており、金属の取っ手がついていた。
落下の衝撃で底部が凹んでおり、そこから赤い液体が漏れ出ていた。
色は先ほど参道にぶちまけられた液体と酷似していた。
ややあって、本殿の方角や、ご神木の銀杏並木のある方角からも水音がしてきた。仙造は嫌な予感がして見に行った。どこもあの赤い液体がぶちまけられていた。
「いったい誰がこんな罰当たりなことを……」
怒りに震えてあたりを見回すが、怪しい人影はない。
またしばらくすると周囲に物音がしはじめた。
「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「ゴンッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「ゴンッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「ゴンッ」「ゴンッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「ゴンッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」「バシャッ」
神社周辺はほどなくして赤一色で染められた。
仙造はあわてて拝殿の軒先に隠れたが、自身も塗料を少なからず被った。
空を見上げると、雲一つない晴天だった。
しかし、仙造のいる神社の上空だけがうっすらと赤く煙っていた。
山の中腹にある送電線や鉄塔が見えにくくなっていたというのだから、その降水量はゲリラ豪雨並みだっただろう。
赤い塗料とペンキ缶はその後も降り注いだが、15:30頃、ピタリと止んだ。
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