親子対決

 海に行くと、お姉ちゃんが仁王立ちして待っていた。


「お母様。勝負しましょう」

「勝負?」


 肩に腕を回されたボクは、まるで猫を可愛がるような手つきで頭を撫でられる。


「もし、あたしが勝ったのなら、レンからすぐに離れてちょうだい」

「嫌よ」

「……へ?」


 ぎゅ、と抱きしめられ、反応に困ってしまった。


「この子は、母の愛に飢えているの」

「あの、ちょ……」

「わたくし、決めたのよ。この子が幸せいっぱいになるまで。いえ、その先も、ずっと愛で満たすって。心に決めたの」


 見た目はお姉ちゃんと同様、気が強そうで怖い。

 けれど、お姉ちゃんに負けず劣らず、色々と柔らかい。

 手を添えるようにして、頭を固定され、頬を柔らかい胸に押し付けた。


 見ていたお姉ちゃんは、「ギリィっ」と歯軋りを鳴らし、大きく震えた。


「その役目は、あたしでもいいでしょ! いい歳こいて、何してるのよ!」

「歳?」


 さらにキツく抱きしめられる。


「愛に歳なんて関係ないわ。ケイったら、まだお子ちゃまなのね」


 得意げに笑い、鼻を鳴らす。

 その姿は、過去に出会ったばかりのお姉ちゃんを思い出させる。


 黙って見ていたボクは、声に出さないけど思った。


 あぁ、本当に親子なんだな、と。


「ところで、勝負って何をするの?」


 お姉ちゃんは海を指した。


「泳ぐの」


 最後に頭をひと撫でされ、シズカおばさんが腕を組み、お姉ちゃんの前に立つ。


「後悔しない事ね」


 こうして、親子対決が始まった。

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