学校での昼食(圧)

 ボクは、屋上で座りながら、カリンさんの弁当を食べている。

 カリンさんは、ニコニコとしながら、お姉ちゃんを見つめている。

 お姉ちゃんは、腕を組んで、高圧的に振舞いつつ、ゼリー食。


 気まずかった。


 チャットでお姉ちゃんから居場所を聞かれ、一緒に食べようと誘われた。

 そもそも、お姉ちゃんとチャットのIDを交換していなかったので、いつの間にか登録されている名前に驚いた。


 屋上と答えるなり、お姉ちゃんがすぐにやってきた。


 そして、気まずい昼食が始まったのである。


「あはは。お姉さんと一緒に食事なんて、光栄です」

「あら、そう? 邪魔して悪かったわね。レンがどうしても、というから仕方なく。……ね」


 ボクの前では、甘々デレデレだけど、プライドの高い根っこはそう簡単に変わるわけがなかった。

 特に、敵視している他人には、変な所を見せたくないのだろう。


 指で尻の横を撫でてくるお姉ちゃん。


「お姉ちゃんが好きなんですね」

「ええ。大好きだ、って昨日も言われたわ」


 確かに言った。

 お姉ちゃんに対して、角が取れた今のボクは、ハッキリと大好きと言える。けど、何でも受け入れているか、というと困惑している所が多いのも、また事実だ。


「へえ……」


 ぎゅうっ、と反対側の尻が抓られる。

 優しかったはずのカリンさんは、昨日から一変して、ちょっと怖くなった。


「普通は弟と一緒に食事って、あり得ないですけどねぇ」

「よそは、よそ。ウチは、ウチよ」

「あ、はは……」


 ぎゅうううっ、と力が増してきた。


「ふふふ」


 お姉ちゃんは、わき腹に指で、延々とハートマークを描いてくる。


 *


 実は、今日の朝食で出かける前に、こんな話をした。


「殺せるのであれば、殺しますが。現実的ではないですね。レン様との日常を送れなくなりますし」


 安城さんがボクの耳たぶを弄りながら、冷静に話す。


 殺すのは、ダメ。

 他の方法で、相手を再起不能にする真似は、ダメ。

 無論、怪我をさせるのもダメ。


 ボクとの日常を考えての上で、思案すると、考える間でもないが、カリンさんに対して危害を加えることはできない、とお姉ちゃんと話していた。


 弱みを握ろうにも、相手との接点がないので、始めよう、ということになった。


 つまり、映画やアニメとは違って、破滅的な未来を選ばないおねえちゃん達は、きちんとボクとの、考えてくれた。


「弱みって言うのは、相手を知っているからこそ、得られるものです」

「あなた、パパの弱み握ったじゃない」

「あれは、旦那様が給料を上げるから、一回ヤラせてくれというので。口でなら、と薬を取っている隙に、予め用意したカメラをカバンに仕込んだのです」


 つまり、初めから防犯用にしろ、カメラは常に所持していたわけだ。

 用心深いというか、さすがである。


「……あの、大馬鹿ッ!」


 何やら、聞いてはいけない闇を聞いてしまった。


「もしも、ダメならばら撒くつもりでしたが、お利口りこうな旦那さまでランは嬉しいです」

「ほんっと、最低!」


 と、話したところで本題に戻る。


「ともあれ、ラン達が今、レン様のためにできることは、ことです。ええ。仲良く、ですね」


 冷たい目に、殺意が孕んでいた。


「愛でカバーするわよ」


 お姉ちゃんは燃えていた。

 こんなことが、朝にはあったわけだ。


 *


「今日のお弁当、どう?」

「うん、美味しいよ」


 レンコンを煮込んだやつかな。

 あとは、ひじきやポテトサラダなど、食べやすいものを作ってくれている。


 そこまで胃にガツンとくる食事ではないので、箸が進む。


「良かったぁ。ね、明日の夕食、わたしが作ってあげよっか?」

「う、……う……ん」


 ボクは、ハッキリと断ることが苦手だった。

 その結果、隣ではお姉ちゃんが、イラっとした表情をしている。


「食材は持っていくから、ご心配なく」

「はい……」


 お姉ちゃんにまで、尻を抓られた。

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