第29話 謎の確認
翌日登校した際、教室は若干重い雰囲気に包まれていた。
なんて感じるのは俺が女子の企てを知っているからだろうか。
当の男子達は、まさか自分が近いうちに総バッシングを受けることなんてつゆ知らず、普段通り駄弁っている。
そして俺の隣の席の叶衣さんも普段通りに見えた。
特に悟られるようなことはせず、挨拶を交わしただけである。
俺も不用意な言動は避けて、男子達にバレないようにしよう。
そんな事を考えつつ、俺はなんとなく廊下に出た。
俺にとっては元より居心地の良いクラスではないから。
だけど、廊下で若干気まずい人に出会ってしまった。
「お、おはよう」
「……うん。おはよ」
つい一昨日、動物園デートをした千陽ちゃんだ。
当然彼女は同じ学校に通っているわけで、こうして普通にエンカウントすることもある。
だけど、お互いに目を逸らしてしまった。
やはり前みたいな関係で話をするのは難しい。
「今日は何の授業があるの?」
「え、えっとね。現代文と数学と……」
テンパって訳の分からない質問をしたせいで、謎に日課表を説明させてしまった。
どう反応することもできないし、曖昧に笑いながら『そうなんだ』と答えるしかなかったけど、そのせいでさらに重い雰囲気に。
何やってるんだ俺!
と、今度は千陽ちゃんが口を開く。
「え、瑛大君は今日もいい感じだねっ」
「う、うん」
「……」
テンパっているのは俺だけじゃなかった。
よくわからない事を言いながら、俺達は別れた。
友達の距離感というのは、難しい。
◇
「櫻田君、千陽となんかあったの?」
「え?」
「前はもっと仲良かったでしょ」
放課後、叶衣さんに呼び出された。
てっきり男子へ仕返しする作戦の件かと思ったため、急な質問に首を傾げざるを得なかった。
目の前の叶衣さんは眉を顰めながら俺を射抜く。
ってか、なんで叶衣さんは俺と千陽ちゃんが仲が良いことを知っているんだろう。
「朝廊下で話してるの見たけど、ぎこちなくない?」
「……なんで俺と千陽ちゃんが仲良いの知ってるの?」
「そ、それは。……別にいいでしょ」
「そっか」
「普通に考えて、自分に告ってきた男子が別の女子とイチャイチャしてたらちょっとは気になるし」
若干頬を染めながら言う叶衣さんに、俺はヒヤッとした。
確かにそうだよな。
あんまりいい気はしなかったよな……。
告白されたり、デートしたりしていたわけで、イチャイチャしていたという部分に関しても否定する気はない。
友達と恋人の間で揺れていたのは真実だから。
「付き合ってるんじゃないの?」
「つ、付き合ってないよ」
「なんでよ。向こうは完全に櫻田君のこと好きでしょ。どういう関係なの」
「……言いたくない」
千陽ちゃんとの事を他の子にペラペラ喋るのは違うと思ったし、俺の気持ちを話すのも抵抗があったからそう答えた。
俺の返答に一瞬目を見開いた叶衣さんは、すぐに睨みつけてきた。
不服そうな表情だ。
「ごめん」
「……いいよ別に。あたし関係ないし」
「ははは、そっか」
すぐに引き下がってくれてほっと胸を撫で下ろす俺。
だけど、叶衣さんは言った。
「そもそも、櫻田君と千陽の仲はみんな気付いてるよ」
「ま、マジ?」
「当たり前。たまに一緒に下校してるのとか見たことあったし」
「……」
「正直、ちょっともやもやしてた」
千陽ちゃんと一緒に外を歩いていたことは何度かあるけど、叶衣さんに見られていたらしい。
「……櫻田君はあたしの事好きだったんでしょ?」
「勿論」
「振ったくせに、今更こんな事聞いて酷い女だと思ってる?」
「全然そんな事は。ってか、俺はてっきり俺の好意なんて迷惑だと」
「……そんな、わけないじゃん」
「そ、そうなんだ」
まさかの言葉に俺は驚いた。
続けて彼女はボソッと呟く。
「あたし、普通に執着しちゃうタイプだし、結構気にしてたんだけど」
「ッ!?」
「あ、えっと、そういう事だから。話終わり」
「え?」
言いたい事を言って帰って行く叶衣さんの後ろ姿を、俺はぼーっと見つめる事しかできなかった。
なんだったんだ今のは。
本当に俺と千陽ちゃんとの仲を確認したかっただけなのか?
意外とよくわからない子だな。
「帰ろ」
居残っていてもすることはないため、俺もその場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます