第13話 呼び出し
予想外の出来事ってのはよく起こる。
告白の現場を見られて、ただの陰キャからいじめられっ子に成り下がる事もあれば、野生のハーフサキュバスに拾われて関係を持つこともある。
俺の人生、奇想天外なことだらけだ。
波乱万丈で、良くも悪くも安定しない。
高校に入って一ヶ月も経っていないのに、既にめちゃくちゃ。
そして今日も、よくわからないことが起きていた。
「えっと……叶衣さん?」
「……」
俺は放課後、暗い職員棟奥の謎スペースに呼び出されていた。
夢にまで見た美少女に、詰められている。
叶衣さんに睨みつけられていた。
遡る事数時間前。
五限終わりに俺は、叶衣さんから『今日の放課後ここに来て』と耳打ちされた。
一緒に手渡されたメモ用紙に書かれていたのは、普段通る事すらない職員棟外れの場所。
それを見た時、俺は悟った。
今日、ついに面と向かって告白の件のお咎めをくらうのだと確信した。
告白に失敗して以降、俺は男子連中から様々な嫌がらせを受けた。
その弊害がついに叶衣さんにも出始めたのかもしれない。
嫌われているのはわかっていたため、呼び出されても変な期待はしなかった。
俺は悲しみながらも、今から自分に振りかかる叶衣さんの怒りを覚悟したのだ。
叶衣さんは俺を見つめていた。
そして、ようやく口を開く。
「なんなのマジで」
「……」
「あんた、最近感じ悪くない?」
「え?」
思ったのと違うセリフに俺は目を見開いた。
「なにその反応」
「いや、ちょっと思ったのと違って」
「は? もしかして私があんたに告白するとでも思ったの?」
「いや、そうでもなくて。ってか別に感じ悪くないと思うけど」
俺はここ最近、叶衣さんに嫌われないよう意識していた。
だから機嫌を損ねている理由が分からない。
存在自体がウザすぎるからという言いがかりだろうか。
それなら仕方ないかもしれないけど。
「はぁ? 最近なに話しかけても素っ気ないし、目すら合わせようとしないじゃん」
「いや、それはその……叶衣さんが」
「私が何? もしかして振られたからもう私の事嫌いになったって?」
「そ、そんなことない! 俺は今でも叶衣s――」
「ちょ、声デカいって!」
思わず気持ちをぶつけようとして叶衣さんに口を押えられる。
すぐに叶衣さんはハッと気づき、俺の口から手をどけた。
「ご、ごめん」
「俺の方こそ」
「ってか何。私の事嫌いじゃないならなんで」
訝しげに首を傾げる叶衣さん。
俺はどう説明していいか分からず、ありのままを話した。
「えっと、叶衣さんは知ってるかわからないけど、実はこの前の告白をクラスの男子に見られてて、あれ以降裏で色々言われてるんだ」
「えっ!? 嘘でしょ」
「その時にお前みたいな陰キャは叶衣さんに釣り合わないって言われて。俺も確かにその通りだと思って。じゃあ勘違いされないように話しかけないようにしようって思ってて」
「……なにそれ。誰が言ってんの」
「それはその」
名前は出さない方が良いだろう。
と、そこでやめておけばよかった。
だけど、俺の中のいじけた部分が悪さをしてしまった。
「叶衣さん、経験豊富って聞いたし、俺なんかと勘違いされるのは心外だろうから」
「はぁっ!? な、何言ってんのあんた!?」
「え、えぇ?」
「け、経験豊富? 私が?」
「え、この前だってサッカー部の先輩とその……ヤッたって聞いたし」
「……ふざけないで」
低い声で言われてビクッとした。
恐る恐る正面を見ると、真っ赤な顔で俺を睨みつける叶衣さんがそこにいた。
「そんなの全部嘘」
「え?」
「……私処女だし」
「……嘘でしょ?」
「こっちの台詞だし。ガチキモ。何その話」
ゴミを見るような目で床を見て、壁に寄りかかる叶衣さん。
マジで恥ずかしそうに照れている。
ていうか、マジで?
叶衣さんって処女だったの?
じゃああいつらから散々聞かされた話って一体……。
「あんた、私の事そんな女だと思ってるの? サイテーなんだけど」
「いやその、俺もその話を聞いた時はそんな子じゃないと思ったんだ。叶衣さんって可愛いし友達多いけど、どこか一線引いてるイメージあったし。そういうとこが素敵だなって思ってたから……」
「ちょ、そこまで聞いてないんだけど」
「あ、いや。ごめん」
「……ガチきっも」
叶衣さんはそう言ってその場から立ち去った。
最後の最後まで、罵倒されてしまった。
「はぁ……」
緊張し過ぎていたため、呼吸を忘れていた。
俺はようやく息を吸う。
そして膝から崩れ落ち、絶望した。
また、さらに嫌われてしまった……。
自分の欲に負けて聞いてしまった。
確かに叶衣さんが経験豊富だというのが真っ赤な嘘だと知れたのは良かったが、そのせいで嫌われるのは本末転倒。
キモい奴だと思われた。
事実なのが訂正しようがなくて悲しい。
「傷つけたよな。……今度謝ろう。いや、どうやって」
タイミングが分からない。
メッセージで送ろうにも、連絡先を持っていない。
勝手に友達登録して大丈夫だろうか。
絶対キモいよな……。
「うわぁ」
しばらく、俺はその場で言葉にもならない呻き声を漏らした。
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