よみがえりの魔法と再生の道
彩霞
第1話 訪問者
秋が深まる日暮れの頃、森にあるアルテイシアの家を訪ねる者がいた。
外から戸を叩く音が聞こえると、燕尾服を着た傍仕えのアズールが、クラブチェアに座わって本を読む主人の顔を伺う。「戸を開けても良いか」と確認したいのだろう。
主人であるアルテイシアは、小さな声で「構わない」というと、アズールは返事をする代わりに軽く頭を下げ、外へと繋がるドアへと向かう。その間にアルテイシアは読みかけの本に、色が白からピンクに階調している羽を挟むとテーブルに置き、それから立ちあがって、彼が開けたドアの前に立つ訪問者を迎えた。
「こんにちは」
アルテイシアがドアの前に立ち挨拶をする。部屋を暖炉で温めていたので、外から入って来る空気が冷たく感じた。
来訪者の女性は、頭から被っていた薄黄色のスカーフを取ると、
「あ、あの……、ここって、魔法使いのアルテイシアさんという方が、住んでいるお家だとお聞きしたのですが……」
アルテイシアは「いかにも」と頷いた。
「私がアルテイシアです」
女性は目を見張る。
「あなたが?」
そう言って、遠慮がちに自身よりも背が高く、すらりとした体型のアルテイシアを、足先から頭に向かって不思議そうに眺めた。
顔立ちも身長以外の体つきも女性らしいのに、茶色い髪は肩よりも短く、男のように白いシャツに茶色いカーディガン、そして少し光沢のある黒いズボンをはいているのが意外だったのかもしれない。いや、そもそも若い女だとは思わなかったのだろう。
それもそのはずで、「魔法使いアルテイシア」というのは言葉だけが独り歩きして、勝手に色んな憶測がされているのだ。「屈強な男」とか「鼻の高い老婆」とか、いつの間にか市民の想像するままの姿が広まっていた。
きっとこの女性も、噂で聞いていた魔法使いを想像して訪れたのだろう。それなのに実際会ってみたら若い女性で、しかも男の服を着ているなんて尚更驚いたに違いない。アルテイシアにしてみれば、動きやすいからそうしているだけなのだが。
「ええ、そうです」
アルテイシアが淡々と頷くと、女性は少し戸惑った素振りを見せたが、やがで「お願いしたいことがあるのです」と言った。
「分かりました、お話をお伺いしましょう。まずは中に入ってお茶でもいかがですか?」
アルテイシアの誘いに、女性は首に下げられたロケットをきゅっと握りしめ、意を決したように頷くと一歩部屋のなかに入って行く。さて、今日の訪問者は彼女に何を願うのだろう。
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