賭けられた支払い済みの年齢

嘉保怜

序章

 その身体と同じ重さの純金を、日本中の子どもたちへ贈ることもできただろう。

 雨宮家は資産家だった。数字が付けられたものは全て手に入る程度に。

 舵取りをしている人物を世界中が知っていた。声も、顔も、志も。どこへ向かおうとしているかも。

 雨宮透には山積みにされていく財産に次いで世間に知られた性質があった。

 その視線の先には子どもにとっての城が建ち、雇用が生まれ、人が育つ。

 透はいつだって向けることを忘れなかった。 

 どんな子であれ子どもが大好きだったから。

 ところで我が子に告知しなかった。どの子が実子で、そうでないか。

 末の子だけ養子だと全員で知っていた。一番小さな家族だけは。

 息子に失望した廉の肉親は産院から姿を消した。本人の耳に入れられない言葉を残し、後を追われないよう足跡を隠して。同じ日に生まれ、弾けたような祝福を受ける他の新生児たちのいる病院で、廉は何も知らず眠り、ある日起きるとたくさんの顔に囲まれていた。

 どの顔も初めて会う弟に夢中だと知らず、廉はまた夢の中へ。

 死ぬ日を待つばかりだった廉を迎え入れた透は幼い子どもたちに言った。

 一番小さな家族をみんなで守れるかな。

 ベビーベッドを取り囲んだ。

 何も知らなかった。悪いことなど起こらない。意思表示せずとも守られる。

 何故ならこの世に間違いなど存在しない。

 そんな子ども時代はもう必要ない。

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