その23 総会屋

 東京都千代田区にある私立ケインズ女子高校は本来の意味でリベラルな学校で、在学生には(後略)



 ある日曜日の昼、私は三島右子ちゃんの実家である一般社団法人「民族政治結社大日本尊皇会」の本社ビル(3階建て一軒家)に招待されていた。


「お嬢、さっきのバトルでは上手に横必殺技をお使いになられましたね。ペチューは場外に飛ばされた時は横必殺技のロケットタックルと上必殺技の瞬間移動が重要になりますぜ」

「ありがとうございます恭兵さん。ところでバリヤー? とかいうのを使う時はコントローラーのどのボタンを押せばよいのですか?」

「ちょっお嬢、そんなに寄りかかられると! ええと、背面にあるこのボタンを押して……」

「そうなのですね。そろそろ操作を覚えられそうなので菜々さんも後で一緒に遊びましょうね」

「うん、楽しみにしとくねー……」


 先ほどからヨンテンドースイッチの人気ゲームソフト「大激闘バトルフェローズ」の遊び方を右子ちゃんに教えているのは30代にして会社の課長を務める富国とみくに恭兵きょうへいさんで、私がわざわざここに呼ばれたのは愛娘まなむすめが男性社員と二人きりで遊ぶのは絶対に許さないという社長の三島行成ゆきなりさんの方針が理由だった。


 私はこのゲームは自分でも持っているので右子ちゃんが遊び方を覚えるまでは豪華なソファに座って見学していたが、富国さんは社長令嬢にして現役女子高生である右子ちゃんに惚れてしまっているらしく見ていて危なっかしい場面も多々あった。


「それでは練習の最後に俺と2人でバトルしましょうか。お嬢、こっちも手加減せず強力なバトラーのトッポギ大魔王を使いますからね。……おおっと、これは手強い! 電撃と俊敏な動きの前に手も足も出ませんよ!!」

「まあ、わたくしは意外とゲームの才能があったのでしょうか? 初めての実戦で富国さんに勝ってしまいました」

「は、ははは……」


 富国さんはこのゲームの経験者なら誰でも分かるレベルで手を抜いて右子ちゃんにわざと負けてみせ、彼は喜んでいる右子ちゃんを見てとても幸せそうだった。


 それからは私も参加して3人でゲームを遊び、そろそろ休憩という所で右子ちゃんはある画面に注目した。


「このオンライン対戦? というのは何なのでしょうか。試しにペチューで挑戦してみますね」

「えっお嬢、いきなりはちょっと!」

「なるほど相手はメックマンを選んで……あ、ああ……」


 不特定多数との通信対戦であるオンライン対戦に知らずに挑戦した右子ちゃんはそこそこの熟練者であるプレイヤーとマッチングしてしまい、結局は全く勝負にならずに完敗してしまった。


「そんな、相手に一つもダメージを与えられずに終わってしまうなんて……私はまだまだですね……」

「お嬢、一回負けたぐらいで落ち込んじゃあいけませんよ! ペチューは扱い方が難しいバトラーですし、また一緒に練習しましょうよ」

「ありがとうございます。ちょっとお茶をれてきますね……」


 右子ちゃんは意気消沈したまま3人分のお茶を取りにリビングへと向かい、私は右子ちゃんのゲームセンスについて恭兵さんに聞いてみることにした。


「あのー、右子ちゃんって正直あんまりゲームに向いてなさそうなんですけど頑張ればオンライン対戦で勝てたりするんですか?」

「菜々さんはよくお分かりみたいですね。俺も本当はもっと初心者向けのバトラーを選んで欲しいんですが、お嬢は小さくてかわいいキャラクターがお好きなようですから。……仕方ない、こういう時のために俺はヨンテンドーの株式を保有してたんです」

「えっ?」

「まあ、お2人とも仲良くお話されているようで何よりです。お茶とお菓子を持ってきましたのでどうぞ」


 それからは右子ちゃんが持ってきてくれた抹茶を飲みつつ和菓子を食べてから再び遊んだが、富国さんが何をしようとしているのかは結局分からないまま解散となった。


 その翌週……



『それではこれより株主の皆様方への意見募集に移りますが、弊社のゲーム機やゲームソフトの販売戦略等について何かご意見、ご質問のある方はいらっしゃいますか?』

『はいっ、俺いや私は貴社のゲームソフトの大激闘バトルフェローズについてお願いしたいことがあります! あのゲームでバトラーとして使用可能なペチューは他の軽量級キャラクターに比べて弱すぎると思うので、せめてペケチューと同じかそれ以上には強くして欲しいんです! あるいはパケモンからもっと小さくてかわいいキャラクターを参戦させてください!!』

『あの、お客様、個別のゲームソフトの内容改善についてはここで提案されてもお引き受けできかねますが……』

『そんな、俺はなけなしの給料をはたいてヨンテンドーの株を買ったんですよ!? どうかペチューを強く! ペチューをもっと強くて使いやすくしてください!!』

『えー、お客様からのご意見はありがたく受け止めさせて頂きます。それでは次の方……』



「ななちー、これ確かゆっこの会社の若頭わかがしらさんだよねー? ツィターとかでめっちゃバズってるけど今時総会屋とかマジ受けるって感じ~」

「は、ははは……」


 四天堂の株主総会の映像をスマホで私に見せながら爆笑している馬鈴ばず流如何るいかちゃんに、私はこれもある意味総会屋と言っていいのだろうかと思った。



 (続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る