その18 ファスト映画
東京都千代田区にある私立ケインズ女子高校は(後略)
ある日曜日の昼、私は3年生の出羽ののか先輩と一緒に近くの映画館に映画を見に来ていた。
「見るからにB級っぽかったからちょっと不安だったけど、思ったよりずっと面白かったわね。低予算なのを逆手に取った演出の工夫が沢山あって感心したわ」
「ええ、これで野掘さんにもポジティブな感想を伝えられそうです。ちょっと前までファスト映画? が問題になってましたけど、やっぱり映画は自分自身の目で最初から最後まで見てこそですよね」
先ほどまで見ていたのはマルクス高校の野掘真奈さんがオススメしてくれた『空飛ぶデストロイハムスター』という小説原作のアメリカ映画で、CGを極力使わずに巨大飛行ハムスターが暴れ回る様子を描くなどシュールな場面が多数ありB級ながら私もののか先輩も十分以上に楽しめていた。
近くの飲食店でお昼ご飯を食べてから解散しようかなと思いつつ映画館の通路を歩いていると、私は見知った顔の女子小学生が一人でとぼとぼと歩いているのを見かけた。
「芽依ちゃん、一人で映画見てたの? もしかしてガンピースの映画?」
「あっナナ姉。えーと、実は男友達がガンピースの大ファンで、話合わせてあげたかったからネットであらすじ調べてから映画見たんだよね。でも原作知ってる人向けの内容だったから最後まで見ても全然分かんなくてぇ……」
千代田区立
「はじめまして、私は菜々ちゃんの部活の先輩の出羽ののかっていうの。ガンピースは私も少しは知ってるけど、ストーリーを理解したいなら原作を読んでみればいいんじゃない?」
「ののかさんの言う通りだと思いますけどぉ、ガンピースって原作がもう100巻以上も出てて、小学生が一から買って読むのは厳しいっていうかぁ……。公式アプリの無料公開キャンペーンもちょっと前に終わっちゃっててぇ……」
芽依ちゃんはこう見えて真面目な性格なのでガンピースの原作も読んでみようとしたらしいが、結局は100巻以上も続いている少年漫画を一から追いかけるのは厳しいようだった。
「それは大変ねえ。そうだ、私もお付き合いしてる男性がいるんだけど、女の子っていうのはやっぱり男の子を追いかけたり男の子に合わせたりしない方が何でも上手くいくものよ。もし私だったら無理にガンピースに詳しくなろうとするんじゃなくて、自分が詳しくないことを逆に利用してみると思うわ」
「なるほどー、何かののかさんが言いたいことが分かる気がします。ダメ元ですけど今度そのやり方でアタックしてみます!」
ののか先輩は芽依ちゃんに間接的にアドバイスを伝え、その意図を理解できたらしい芽依ちゃんは何かの覚悟を決めたらしかった。
その数日後、私は芽依ちゃんが放課後に書店で立ち読みしている真嗣君に話しかけているのを見かけた。
「シンジく~ん、下校中に本屋さんで立ち読みなんていけないんだぁ~。それにたった数百円の雑誌も買えないぐらいお金ないのぉ?」
「うわっ違うよメイちゃん! 僕は少年ジャックは定期購読してて、今日家に届く予定なんだよ! 連載作品の続きを今すぐ読みたくなっただけで……」
「へー、そんなに楽しみな漫画があるんだぁ~。そいえばガンピースって有名だけど、あれって面白いのぉ? あたしちょっと興味あるんだけど巻数多すぎてチャレンジできないんだよね~」
「メイちゃん、ガンピースは女の子でも1回は読んでみた方がいいよ! そうだ、僕の家に原作全巻あるから良かったら貸すよ? 何度も読み返してるからすぐに返してくれなくていいし!!」
「そんなにオススメなら読んであげてもいいかな~。よーし、今からシンジ君のおうちにお邪魔しちゃうもんね~」
芽依ちゃんは真嗣君に上手く話を持ちかけるとそのまま真嗣君に付いて宇津田家に遊びに行き、私はこういう作戦を思いつくののか先輩も実行できる芽依ちゃんも相当女子力が高いと確信した。
(続く)
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