その3 学術会議

 東京都千代田区にある私立ケインズ女子高校は(後略)



「この間は有紀様がカラオケをご一緒してくださったのですよ。あの透き通るような美声を聴くと、わたくしの心も洗われるような気がするのです……」

「へ、へえー、そうなんだー……」


 ある日の放課後、硬式テニス部仲間で同じクラスの同級生でもある三島みしま右子ゆうこちゃんはいつものように憧れの人の話を私に聞かせていた。


 右子ちゃんは硬式テニス部のライバル校でもある私立マルクス高校の2年生の堀江ほりえ有紀ゆきさんを尊敬しているらしく、月額2000円も払って彼女のファンクラブに入会していた。



「ああ、あのお声をいつもお聴きできる立場になれれば。菜々さんにも幸せな時間を味わわせて差し上げたいものです」

「ははは、それはいいかもねー……」


 堀江さんは確かにスタイル抜群の美人だけど私には同性の美女に憧れる気持ちはないので、右子ちゃんの話をどのタイミングで切り上げて貰おうか迷っていた。



「ところで右子ちゃん、せっかく堀江さんのファンクラブに入ってるんだから、堀江さんの話は同じファン仲間に聞かせてあげたらどう? 私に話すよりも有意義になるんじゃないかなって」

「それは一理ありますね。この学校では同好会の設置は比較的容易ですし、こころみてみようと思います。よろしければ菜々さんにもご協力頂きたいです」


 右子ちゃんはそう言うとスマホを取り出してファン仲間に連絡を取り始め、私はそろそろラーメンを食べに行きたいと思った。



 その翌週……


「本日は堀江有紀研究会、すなわち『黒猫学術会議』の初会合となります。他校からお出でになった皆様、よろしくお願い致します」

「こちらこそよろしくぅー! ほっちゃーん! ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」

「俺お金なくて黒猫くろねこ倶楽部くらぶには入れてないんですけど、呼んで貰えて嬉しいです。ぜひよろしくです」


 ケインズ女子高校の会議室にはマルクス高校など他校からも堀江さんのファンが集まっていて、彼らの顔に見覚えはないけど右子ちゃんと同じぐらい堀江さんを愛している人々らしかった。


 同好会を成立させるために私もメンバーに加えられていて、右子ちゃんには見返りに後でデザートをおごって貰うことになっていた。



 黒猫学術会議の会合はとても盛り上がり……



「皆様、有紀様はどこを取っても素晴らしいお方ですが、彼女の最大の魅力は何でしょうか。私はあの美しいお声だと思うのですが」

「ええーっ、そうなのぉ? 女の子はやっぱり顔だよ顔! 美声もスタイルもかわいいルックスがあってこそだよぉ!! ホアーッ!!」

「女の子の前では言いにくいですけど、俺はあの柔らかそうなバストが大好きですね。パッと見で分かる魅力ですし」

「そのような見方は下賤げせんです! 例え豊かなお胸がなくとも有紀様の魅力に変わりはありません!!」

「それはそうだけどぉ、もし声が普通でもほっちゃんはキュートなだけで十分だよ! 女の子は何よりも顔、顔! ホアアーッ!!」

「ええー、でも俺堀江先輩が貧乳だったらここまで好きか分かんないですよ。巨乳のお嬢様って最高じゃないですか?」

「私とてあのお胸に( 自粛 )という思いはありますが、それも上品なお声があってこそです! 優先順位を考えてください!!」



(うう……お腹空いたよぉ……)


 盛り上がりすぎていつまで経っても終わらず、私はこの日をもってメンバーを抜けさせて貰ったのだった。



 (続く)

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