その1 外患誘致罪

 東京都千代田区にある私立ケインズ女子高校は本来の意味でリベラルな学校で、在学生には寛容の精神と資本主義思想が教え込まれている。



「キィーー! これは許せないわ! せっかく英語読んで買ったのに日本語に対応してないじゃない!!」

「ののか先輩、また乙女おとめゲームですか?」


 練習のない日に硬式テニス部の部室に寄ってみた私、灰田はいだ菜々ななは、3年生にして部長である出羽でわののか先輩が部室のノートパソコンの前で激怒しているのを目にした。


 先輩は乙女ゲームを好んでいるけど基本的には家庭用機でしか遊ばないらしいので、不慣れなパソコンゲームで何か問題に遭遇したようだった。



「あら、菜々ちゃん。実は中国のサークルが作った『はらはら美術部!』っていう乙女ゲーがカルト的な人気らしいから買ってみたんだけど、現時点では中国語と英語にしか対応してないっていうの。スチーム版だから返品もできないし……」

「えっ、でも先輩英語なら読めるんじゃないですか? 英検準1級持ってましたよね?」

「何を言ってるの、ゲームは勉強したくない時にやるものなんだからいちいち英文なんて読んでられないわよ!」

「は、ははは……」


 ののか先輩は今の時点から都内で一番難しい名門私立大学への指定校推薦が内定している才色兼備の女子高生だけど、性格が色々と残念なので未だに彼氏はいなかった。



「私も詳しくはないんですけど、最近のパソコンゲームでは有志によって非公式の日本語化プログラムが作られたりするそうです。そんなに人気のゲームならそのうち誰かが作って配信してくれると思うので、リサーチしながら待ってみたらどうですか?」

「それは耳より情報ね。もう誰かが配信してるかも知れないから、今から調べてみるわ」


 ののか先輩はそう言うとパソコンゲーム配信サービスであるスチームの画面を閉じてインターネットブラウザを起動し、私は特に用事もないのでそのまま軽食を取りに学校を後にした。



 その翌日……


「キィィィーーー!! 一体どういうことよ、変な画面が出てゲームどころじゃないじゃない!!」

「先輩、これは一体?」


 硬式テニス部の練習開始前、ののか先輩はエラー画面が大量に出ているノートパソコンを前に半狂乱になっていた。



「インターネットの掲示板にアップロードされてた日本語化プログラムをインストールしてスチームを開いたらこんな風になっちゃったの! こんなことをする人間は外患誘致罪がいかんゆうちざいで死刑よ! ゴートゥーヘル!!」

「は、ははは……」


 結局ノートパソコンを初期化する羽目になったのはともかく、この場合外患誘致罪が適用されるのは先輩ではないかと思った。



 (続く)

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