第11話 いよいよ、寿司の包みが開かれて・・・
「お言葉ですが、堀田先生は物理学のまったくの門外漢の学生さんらにも、わかりやすく御自身の学問を紐解いてみせておられる。そのあたりは、研究室の後輩だった石村先生の影響をお受けになられたそうだが、そういう教育も重要ではないですか。誰もがおたくの弟さんや石村さんのような物理学者になるわけでもないでしょうに」
元職業軍人の山藤氏が、刑事事件の弁護人のごとく新聞記者に反論する。
「それもそうですな。私だって物理学のことなんかさっぱりヤぁ(苦笑)。それに、私も学生時代、さほど勉強できたクチでは、なかったわなぁ(苦笑)」
彼らは、駅前のタクシーに乗って、駅から少し離れた地にある堀田邸に向かった。
「今日は、S電鉄の渡辺寿保サンが来られておる」
既知の情報ではあるが、車中の兄のその弁に、弟は何かを感じないわけにはいかなかった。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
タクシーに乗って数分。堀田氏の実家に到着した彼らは、両親らに導かれて客間へと入っていった。
そこにはすでに、立命館大学理工学部の石村修教授とその母、それにS電鉄の渡辺寿保技師ら客人が集っている。
「それでは、石村君とお母様、どうぞ、こちら岡山名物のばら寿司を御覧あれ」
乾杯に先立ち、堀田教授は石村教授とその母親に、まずはばら寿司の箱を目の前に置いて見せた。
母親のほうは、風呂敷から位牌と遺影を持出した。
「これ、戦死した修の弟の位牌と遺影です。この子にも、お裾分けを」
「も、もちろんでございます。どうぞ、弟さんにも」
恐縮しながら、堀田氏は石村氏の母に述べた。
「堀田君、こっちは大丈夫じゃ。まずは石村先生の弟さんとお母様にお見せなさい」
山藤氏が、周囲を止めてくれている。
メインイベントは、いよいよここから。
「了解です。では、シュウ先生にお母様、まずは包みを普通に開いてみてください」
母子は揃って包みを開けた。
ところがそこには、金糸が申し訳程度にまぶされた程度の酢飯が見えるのみ。
「はあ、これ、確かに香りからして高級なお寿司でしょうが、堀田先生、こちらは、ちらし寿司にしましても、えらい質素と申しましょうか・・・」
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