第77話 『思い、想い』
目の前では異様な光景が広がっていた。俺は必死にリリアを助けようとスキルを使い…………そこからはほとんど何も覚えていない。
気づけば地面は爪痕で抉れ男が倒れており、怪我をしている海賊たちが絶対に手は出さないから、船長――目の前に倒れてる男、ラカムといったか? そいつを治療させてくれと頭を下げていた。
状況がよくわからない俺はリリアからも頼まれたため、とりあえず了承したが……。
「とにかく、王女様も無事見つかったことだしさっさとこの島を出るとしよう」
「だ、ダメ! サーニャは連れていかせない!」
「なんだ? お前も敵だったのか」
「ッ!!」
「待って、何か事情があるみたいなの」
ここに来る途中、縛られていたからほかに捕まっていた人だと思って助けたんだが。クマと合流したと思ったら突然消えるし、急いでここに向かったため女性のことは何も知らなかった。
まぁ敵なら敵で倒せばいいだけなんだが……。リリアに腕を掴まれいったいどうしたものかと思っているとミントが俺の元にやってくる。
「そいつがセイレーンだよ。何かわけがあるみたいだし話を聞いてみてよ」
「だがそろそろ日も暮れ始めるぞ、ゆっくりしてる暇はない」
「なんなら俺らの住処にこい」
「せ、船長まだ無理をなさっちゃ……」
部下に肩を借り、なんとか立っている状況のラカムが提案してきた。
「……なんだ、まだ諦めてなかったのか」
「俺はもうお前に殺されている。一切手は出さねぇよ」
そうはいっても今一つ海賊の言うことなど信用できない。実は重傷にみせかけてすでに回復し、虎視眈々と狙っている可能性もあるからな。
「あの……彼の提案を受けてもらえませんか? どうしても聞いておきたい話があるんです……」
そういってきたのは王女だった。知り合いなのかわからないが、なぜか二人は初対面のような態度ではない。
「任せるが不安要素があれば俺たちの指示に従ってもらう。王女様も、お前もだ」
「……わかったわ」
一応セイレーンにも釘をさしておかないとな。それにこの王女、下手すればここに残るとか言い出しかねん。俺にはどうでもいいんだが爺さんと約束したからな……。
「ラカムといったか? あんたの部下だろうが少しでも何かすれば全員……それを頭にいれておけ」
「あぁ、それは理解している。こいつらの責任は俺の責任だからな。気に障ったことがあれば遠慮なく殺れ」
「それじゃ少し休んだら案内頼んだよ。僕はもう疲れた」
「クゥ~」
「ミント、お疲れ様。ありがとね」
ミントはいつも通りルークの背に乗ると寝転がった。いつもならすました顔で余裕ぶるのに今回はだいぶ大変だったみたいだ。しばらく休憩を挟み先ほど俺が見つけた海賊たちの住処へとやってくる。
先に連絡がいってたのか騒ぎは起きず、俺たちは木で作られた大きめの家に案内された。
まぁ家といっても立派なものでなく、あくまで寝食さえできればいいといった簡易的なものだったが。
「あの、遅くなってしまい申し訳ありませんが、助けに来ていただきありがとうございます」
礼儀ができるあたり、助けられて当たり前だとは思っていないようだ。
「たまたまだ、俺たちも水の都にいく途中だったからな」
「あの、王女様はなんでそちらの女性と知り合いなんですか?」
「それは――あ、先に私のことはサーニャとお呼びください。彼女はセイレーンのフィル」
「……」
「セイレーンって確か、歌を聴かせて効果がないと死ぬんでしょ?」
「そうなの?」
「ふん、これだから妖精は知識ばかりの頭でっかちばかりで困るのよ」
「な、なんだとー!」
「ミント落ち着け、罠かもしれん」
「あんたもあんなに強いのに、意外と臆病なのね」
「フィル、やめなさい!」
フィルはこの状況で何を企んでいるのかわからないが挑発してくる。王女が止めようとしていたが俺は冷静だった。
臆病と言われたことも、どこか納得している部分もあったから……。だからそのまま流し話を続けようとしたが、隣にいたリリアが勢いよく立ち上がった。
「レニ君は……臆病なんかじゃないッ! 誰よりも優しくて、誰よりも強いんだ!!」
俺たちの前に立ったリリアの髪は相変わらずピンク色に漆黒のような黒髪が混ざっている。俺は気づけばその髪をできるだけ見ないようにしていた。こうしてはっきり見るのも…………久しぶりのような気がする…………。
前世じゃウィッグや流行りなんかで散々見てきたから、そのうち慣れるだろうと思っていたのに……はっきりとそれが目に映ったとき、自分がいつからか目を背けていたことに気づく。
「リリア、もういいから。落ち着いて」
「そんなこといって、その髪だって散々苦労してきたからそうなっちゃったんでしょ!」
その言葉で冷静だった俺の心は一気に冷たい何かが落ちた。こいつはやはり何か企んでいる……これ以上邪魔をするならさっさとやるか。
そう思いスキルを使おうとしたそのとき、黙っていたリリアがフィルの顔を思いっきり叩いた。静かだった部屋に痛々しい音が響き渡る。
「…………な、なにするのよ!!」
「髪のことなんかどうだっていい! レニ君に謝れ!」
すぐに二人は掴み合いを始め、リリアのまさかの行動に固まっていた俺たちは王女と一緒に止めに入る。
「フィル! あなたが悪いわ、謝りなさい!」
「ちょ、ちょっと君、相手を間違えないほうがいいよ! ほら僕のことはいいから謝って!」
「リリアやり過ぎだ! 落ち着け!」
「クゥクゥー!」
王女とミントがフィルを、俺とルークでリリアを、なんとか二人を引き離すといったん落ち着かせる。あんなに怒ったリリアは初めてみた……。呼吸は荒く、顔を真っ赤にしているのをみると本気で怒っていたのが見て取れる。
しばらく二人を離し落ち着かせているとリリアが口を開いた。
「……レ二君……ご、ごめん。あなたも、叩いてごめんなさい」
リリアはすぐにフィルに謝罪して頭をさげる。全員がなんともいえないその空気に沈黙していると、
「ちょっと……頭冷やしてくるね……」
「あ、おい!」
そういってリリアはすぐに部屋を出ていった。ここは敵地のど真ん中だ……だがリリアの気持ちも汲んであげないと。
「ミント、無理に連れ戻さなくていいからリリアの側にいてやってくれ。何かあると危険だ、ルークもいけ」
「うん、いくよ!」
「クゥ!」
二人が出ていくと部屋には、俺と王女、フィルの三人だけが残った。
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