第75話 『正念場』

「で、どうする? あいつが来るまで待つ?」


「いや、王女様を助けにいこう。クマ、追跡はできそう?」


「クマッ!」



 歌に込められた魔力がなくなったため追跡も問題ないみたいね。あのセイレーンも口を塞がれていたし歌に関してはもう大丈夫そう。

 王女様の行方を追い海賊船の前までいくと、海賊たちが王女様を囲んでいるのを見つけた。



「船長、この女は?」


「こいつはセイレーンだ。歌を聴くと魅了されるから布を外すなよ」


「こんなにいい女なら少しくらい魅了されても…………痛ッ!!」


「馬鹿を言ってないでさっさと連れていけ、ほかの奴らは出航の準備をしろ」


「へい、わかりやした」



 セイレーンだけレニ君が向かった森のほうへ連れていかれてる。船に乗せるのが王女様だけってことはやっぱり……。



「お金がほしいのであれば私が払います。だからその子は見逃してあげて!」


あの国・・・が出すとでも?」


「……父上に直接交渉します、それまではその子に手を出さないと約束してください!」


「まったく、あなたは本当に何も知らされていないようだ。なぜ今更になって砂漠の国と縁談の話などでてきたのか不思議に思わなかったのか」


「あ、あれは水の国の資源を必要とする砂漠の民のために」


「建前上はな、真実は隣国に対する軍事力強化のための縁談。そしてその縁談が破棄された今、砂漠の国との関係も切れあの国はすでに孤立したも同然」


「そんな……隣国とは友好関係にあるはずじゃ」


「そんなもの上っ面だけだ、もうじきあの国は終わる――だから俺と一緒にこい。そうすれば俺があの国の王となりお前を守ってやる」


「海賊などになるのなら、私は国と共に死を選びます!」


「まだわからないようだな。セイレーンの血を引くお前ならば国を救うことができる、そしてそれを引き出せるのは俺だけだ」


「な、何を言ってるのです……!?」



 やっぱり結婚しようとしていたのね! しかも王女様がセイレーンの血を引いてるって、色々と複雑な事情があるみたい。とにかく難しいことはあとにして王女様を助けるなら相手の人数も少ない今しかない。



「ミント、私が囮になるから王女様を助けられる?」


「いいけど、大丈夫? これは練習じゃないんだよ」


「わかってる、クマはこの場所をレニ君に知らせて」


「クマー!」



 深呼吸し震える手を鎮めるように杖を握り直すと男の前に出ていく。



「王女様から離れなさい!!」


「ん? なんだお前……どっから出てきた」


「私はお爺さんに頼まれ王女様を助けにきた、正義の味方だ!!」


「まさか、爺やが……?」


「はっはっはっは! こんなガキ一人、ラカム船長が出るまでもねぇ。俺たちが可愛がってやるよ!」


「待て、こんなところにガキが一人でこれるわけがねぇ……何かあるな」


≪ストーンエッジ≫


「ッ!!」



 突如、海賊たちの足元から地面が針のように隆起する。部下たちは負傷し動けなくなったが、ラカムと呼ばれた男だけはとてつもない速さでそれをかわした。王女様から離れるとミントが姿を現す。



「ちぇっ、あと一人おしかったなぁ」


「まさか妖精とは……」


「王女様! 早くこっちに!」


「は、はい!」



 よし、これであとはレニ君が戻ってくるまで……いや、この人を倒せれば! ラカムは部下が全員倒れているというのにほとんど気にしている様子はない。



「俺の大事な部下になんてことをしてくれる。いつか王女を守る兵士になるというのに」


「誰が国を裏切ったあなたなどと!」


「そうよ、王女様をさらったりする人が結婚できるわけないじゃない!」


「おやおや、ずいぶん嫌われてるな。これでも俺はサーニャ姫の気持ちは痛いほど知ってるぜ」


「何を勝手なことを」


「忘れたのか? 初めて歌ったあの日のことを」


「あっ――」



 王女様が急に茫然と立ち尽くすと、ラカムは素早く動き私とミントへナイフを投げる。一瞬の隙を突かれたが距離もあったためなんとか避けることができた。

 ミントは王女様の前から動こうとせず、魔法でナイフを防ぎ、よく見ると王女様の周りにもバリアを展開している。

 ラカムは投げたナイフを見て自分の手をぷらぷらさせ何か確認するような動作をしていた。



「何かおかしいな……その仮面のせいか?」


「ミント、こちらからも仕掛けよう」


「わかると思うけど僕は動けないからね」


「わかってる、ここが踏ん張りどきよ」



 自分にそう言い聞かせると魔法を描き始める。



「ん? なんだそりゃあ……やらせるか!」



 ナイフを投げられたが私はそのまま避け魔法陣を描いた。


≪タカノツメ≫


 燃えさかる鳥が現れ標的に向かって飛んでいく。だが、ラカムは余裕の表情で魔法を避ける。



「その程度じゃ俺には当たらないぜ」


「まだだッ!!」



 私はすぐさま念じると鳥は急停止し、ラカムの頭上から襲い掛かる。さすがに頭上から襲い掛かられることになれていないのか、ラカムの足は止まり鋭い爪が迫った。



「ちっ、仕方ねぇ!」



 ラカムはそういうと筒のようなものから巻かれた布を取り出しかぶる。そして爪が当たり炎が布を斬り焦がす……だが、布は焦げ繊維が少し切れた程度でラカムには当たっていなかった。



「やってくれたな。まさか斬撃までついているとは危なかったぜ」


≪アクアバレット≫


「きかねぇよ」



 今度はミントが放った魔法をそのまま布で防ぐ。ミントが手加減なんかするわけない……あの布……何か・・ある。



「さぁて、ここからが本番だ」

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