第63話 『休息』

 町の中は騒然としていた。被害はなさそうだがあんな魔法が近くで起きれば誰だって焦るだろう。入り口では荷物をまとめた商人達が話をしていた。



「おい、本当にでていくのかよ。モンスターは全部倒したって兵士たちがいってただろ」


「あれほど強気だった王子様も重傷を負って倒れたらしいじゃないか。命あっての商売だ、こんな危険なところいられねぇよ」


「あ、おい! ……ったく根性なしめ」



 町を出ていく人もいるようだな。見たところ兵士たちはいないが油断はできない、早く開いてる店を探して食料を集めよう。歩き回りなんとか店を探し食料を買い込んでいく。



「こんなもんか」


「んっ? お、おい、そこの少年!」



 気づかれた? 俺は荷物で隠すように剣に手を掛けゆっくりと声のするほうを振り返る。振り返るとそこには果物を売っていた店の男がいた。



「やっぱりお前さんだったか! 怪我はないか?」


「……えぇ」


「旅の途中だってのに災難だったな、天変地異でも起きるんじゃないかと思ったぜ」



 男は持っていた荷物からココヤッシを取り出すと俺に差しだした。



「これは?」


「そんだけ食料を買い込んでるってことはこの町を出ていくんだろ? 色々大変なときに来ちまったみたいだがこの町を嫌いになってほしくねぇからな。俺にはこんなもんしかねぇがお詫びだとでも思ってくれ」


「…………」


「まさか……苦手だったか!?」


「いえ、ありがとうございます。今お金を」


「いらねぇよ、押し売りするほど俺は腐っちゃいねぇ。ほれ、そんじゃ旅の無事を祈ってるぜ」



 男は半ば強引に渡してくると荷物を抱え直し去っていった。ココヤッシだっけ……リリアは食べたかな……。

 なんとなくそんなことを考えながら歩いていると薬屋につく。しかし扉は閉まっており鍵が掛けてあった。ま、食料が確保できただけでも良しとするか。


 オアシスに戻るといつの間にか木箱が三つほどおいてあり、一つはリリアの鞄が入っていた。残りの二つには回復薬やら毛布、日常で必要そうなものが詰めてある。



「おい、これはなんだ」


「あ、おかえり~。なんか男が来て置いてったよ。必要そうなものを入れといたとかいってた」


「……余計なことを」



 日も暮れてきたため俺は早めに野営の準備をすることにした。野営といってもやれることが限られているが……。

 砂漠の夜は冷えるというがこの世界では多少冷え込む程度でそこまでの対策は必要ない。俺は着ていたフードを枕代わりに丸め、リリアの頭に置いていた鞄と交換する。


 枕を交換し鞄を取ると中からもう一つのフードを取り出しリリアにかぶせる。とりあえずこれで寒さは大丈夫だろう。さて、飯の準備でもするか。


 まさかここでこれ・・が役に立つとはな……助かったよソフィアさん、タイラーさん。

 俺は小さく最低限にまとまった野営セットを取り出す。これは王都を出る際、ソフィアさんとタイラーさんがお金と一緒にくれたものだ。二人が旅をしてるときに使っていたものらしく、お古ではあったがいざという時に役立つと頂いていた。



「ミント、すまんがこれに火をつけてくれ」


「あいよー」



 俺が置いた石にミントが火を放つと、石はぼんやりと発光し火を灯した。薪代わりに石が使えるなんて便利なもんだ。



「今から飯にするが何か希望はあるか? そんなに豪華なものは作れないがな」


「こんなところじゃ期待なんてしないよ。それくらい僕だってわきまえてるさ」


「ククゥ」


「ははは、精々頑張ってみるよ」



 さて何を作るか。いくつか材料を買っていた時、一緒に調味料も買ってたな……。主食はパンみたいなものがあったし……よし、ソースを作って付けながら食うか。

 なんとなく合いそうな材料を混ぜ煮込む。調味料を付け足し徐々に味の調整をしていくと――さすが俺。まずいわけじゃないがとっても美味しいほどでもないソースが出来上がった。



「なんか不思議な匂いだね」


「このソースをこれにつけて食べるんだ」



 俺はミントに食べ方を教え実際に食べてみる。うん! コクというか……深みはないが美味しいといっていいんじゃないか?



「えーっと……これにつけて……」



 ミントは小さくちぎったパンをソースにつけ恐る恐る口に運んだ。まずいとか言われたら悲しいがそもそも味覚なんてもんはみんな違う。不味かったら少し味変も考えてみよう。



「おー! うまいじゃん、これ!!」


「クゥクゥ!」


「お口に合ったようでよかったよ。ルークの分はこっちだ、少し食いやすいようにしてるからな」



 ミントとルークは夢中で食べている――こりゃあリリアの分も食べきらないように注意しないといけないな。俺も混ざり、調味料を混ぜて味変を楽しみながら一緒に夕食をとった。



「ふ~美味しかった~」


「クゥ~」



 満足そうにミントはルークに寄りかかる。俺も食べ終わるとリリアの分を残し片付けを始めた。

 火は徐々に消えるし、とりあえず明かり代わりにして、消えたらまたミントにつけてもらおう。



「二人共、あとで顔を洗ってこいよ」


「えっ?」


「クゥ?」



 ミントもルークも口の周りがべちゃべちゃだ。まぁそれくらい夢中で食べてくれたのなら俺としても嬉しい限りだが。一通り片付けも済んだ頃、二人が顔を洗って戻ってくる。



「ふぃ~」


「クゥ~」


「お、綺麗になったな。それじゃあこれからについて話し合いをしたいからこっちにきてくれ」



 俺は作戦会議をするようにみんなを集めた。先にミントが思いついたように口を開く。



「確か三日後にあの男がくるんだっけ?」


「一応はな。問題はそれまでだ」


「休んでればいいんじゃないの? 食料だって買ってきたんだろ」


「そうなんだが、俺たち全員が寝てしまうと襲われたときに対処ができない。ましてや誰か一人でも人質にされると危険だ」


「そんなことしてくるかなぁ」


「用心するに越したことはないってだけさ。それでなんだが、俺が先に寝るから火が弱まる頃にでも起こしてくれ」


「あんなのすぐに弱くなるじゃん、それにそのあとはどうするんだよ」


「少し寝たらあとは俺が起きてるよ。だから悪いが少しだけ先に寝させてくれ」



 そういって俺は早めに寝ることにした。色々ありすぎて疲れていたのだろう……目を閉じると意識はすぐに眠りの中へ落ちていった。

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