第9話 『導き出した答え』

「ん~………………わからん!」


「そろそろ日が暮れる頃ね、今日はここまでかしら」



 リリアの魔法について探ろうとすること数時間、一向に進展はなかった。

 ソフィアさんが一人離れたところで頑張っているリリアに声をかけるとリリアはうつむきこちらへ歩いてくる。ソフィアさんも本当はまだやらせたかったのか少し寂しそうにしていた。



「ッ!! リ、リリア、ストーップ! ソフィアさんあれ……あれなんですか!?」


「へっ?」


「急にどうしたの」



 俺は間違いなく見た……引きずった杖の先、地面が薄っすらと光っていたのを。リリアはびっくりしてその場に止まり、ソフィアさんは辺りを見渡している。


 今のは……まてよ、そもそも呪文が浮かばないのなら作ってしまえばいいんじゃね? 魔力に関してはリリアだってちゃんと持っていたし。



「ね、ねぇどうしたの?」


「つまり……ということは……そうか、もしかしてあれか!」


「いったい何があったのよ」


「ソフィアさん、ちょっと待っててください。リリアこっちきて!」


「えっ? あっ――」



 俺はリリアの手を引きすぐ近くの平地に連れていく。疲れからか顔が若干赤い気がするが……話が終わると俺だけソフィアさんの元に戻る。



「ちょっと、どうしたのよ?」


「今から面白いものが見れるかもしれません。やってみないとどうなるかわかりませんが……リリアー! 気楽にいこう気楽に、失敗してなんぼだ!」



 リリアは俺の言ったことを思い出すように確認すると、決心したのか一度だけ頷く。そして、杖を地面に立て線を引いていった。


 その線は光を出し何かを描いていく――完成したのだろうか? リリアが地面に描かれた魔法陣から離れると燃えさかる奇妙なものが現れた。



「な、なんなのあれは……」


「あれは――とうがらし? だけど鳥の爪のように見えなくもない……リリア~それって飛ばせる?」


「…………ッ!!」



 ぼーっとしていたリリアが俺の声に反応し近くにあった木に杖を向ける。それ・・は勢いよく飛ぶと木にぶつかり燃えた跡と爪痕のような傷を残し散っていった。



「もしかして……タカノツメってことか。まぁ形はどうあれ結果オーライだな、はっはっはっは!」


「ウソでしょ…………」



 笑っている俺をよそにソフィアさんは茫然とし、リリアはジッと動かずに木を見つめている。

 色々聞きたいことはあるがとりあえず今は成功を祝おう!



「やったな、おめでとう!」



 リリアは振り返ると俺を見て急に走り出した……そして、跳んだ。



「やったあああああああ! できたあああああああああ!!」


「おおおわっとぅ!? はははっ、やったな!」



 嬉しさのあまりかリリアは俺に抱きつくとそのまま泣き出した。今までの苦労が報われたんだ、仕方ないだろう。

 そんなこんなで慰めて? いると後ろから声がする。



「レニ君って、リリアちゃんを泣かせすぎじゃない?」


「はッ!?」


「ッ! ご、ごめんなさい!!」



 言われてみれば俺って結構リリアの泣き顔みているような気が……。ソフィアさんは固まっている俺に妙な笑顔をみせるとハンカチを取り出しリリアの涙を拭く。



「ほら、可愛いお顔が台無しよ」


「あっ……ありがとうございます…………」



 なんてクールビューティーな……俺にあれはまねできない。いや、やったら大変なことが起こりそうだ。それに事情はどうあれ女性を泣かせるのは男として非常にまずい……。


 そんな現実にショックを受けていると、リリアも落ち着いたのかソフィアさんが仕切り直す。



「さっきの魔法、あれはどうやったの?」


「レニ君が教えてくれたんです。魔法陣を描けばそれが呪文として成立するんじゃないかって。魔法陣に魔力が流れてれば制御にもなるだろうし、あとは適当に火の魔法でもイメージしてって……あとは体が勝手に動きだしたんです。ただ途中で、昔知らずにかじったあれ・・が頭に浮かんじゃって…………」



 あ~わかるぞ! 子供の頃って好奇心旺盛だし、案外いけそうって思うんだよなぁ。

 それでかじっちゃうと燃えるような辛さというか刺すような痛みがでてきて……だからあんなに燃えさかるタカノツメがでてきたのか。



「それが本当なら一種の創造魔法よ……」


「た、たまたまうまくいっただけかもしれませんし」


「それでもすごいことよ、誇りなさい。それに魔法が使えるようになったのなら……いけるわね」


「ほ、ほんとですか!」



 リリアが喜ぶとソフィアさんは俺に話を振ってきた。



「レニ君、あなたはこれからどうするの?」


「どうするって、そりゃあタイラーさんと合流して早く卵を探さないと」


「間違いなく危険な目にあうわよ? 私たちがついていても守り切れないかもしれない」


「そんなの今更気にしませんよ、それに元々は俺がした約束なんです。最後まで見届けないといけません」


「――ということだけれども、それでもあなたは来るつもり?」



 そういって今度はリリアのほうへ向き直る。リリアはまるで自分に言われていたのを知っていたかのように、真剣な目でソフィアさんを見つめ頷いた。


 ん? なんでリリアが?


 そんなことを思っているとソフィアさんが笑顔になり俺のほうを向く。



「ということなのでレニ君! リリアちゃんも一緒に行くことになったからよろしくね~」


「どういうことですか!? 話がみえないんですけど!」


「リリアちゃんはね、あなたの力になりたいって言ってたのよ」


「だからってわざわざ今じゃなくても……」


「あなたは危険なとき、リリアちゃんを助けなかったの? 自分が安全なときだけ助けたの? それと一緒よ」



 いや、でも、それとこれとは――そんな言い訳が口からでそうになった俺にリリアが詰め寄る。



「お願い! 今度は私も力になれる……なるからッ!」


「で、でも、怪我でもしたら大変……」


「レニ君はみんなのためにドラゴンと戦ってくれたでしょ、私だって覚悟してるよ!」


「ほら、婆さんから許可をもらわないといけないんじゃ……」


「前から《・・・》話はしていたから大丈夫、モンスターについても色々聞いてるから!」



 前からってそんな大事なこと、婆さんからは何も聞いてないぞ!

 そんな俺の気持ちとは裏腹にこうなったリリアは止まらない、というか止められない。



「それじゃあ決まりね。王都まで距離もあるし明日の朝にはすぐ出発するから、今日は帰って話をつけてきなさい」


「ほ、本当に大丈夫か?」


「うん、魔法だってもっと練習して強くなるんだから!」


「王都に着くまで時間もかかるし私も戦闘の基本を教えてあげる」


「ありがとうございます!」



 わいわいと若干遠足気分のような二人に不安を抱きながらも俺は諦めて家に帰ることにした。




 * * * * * * * * * * * *


 ~その夜、父と母~



「寝たか」


「えぇ」



 レニの両親が机に向かい合わせで座る。机には短剣と鞄、そして袋が並べられていた。



「明日の朝出発か……急な話だったが寂しくなるな」


「あの子はたまに無理するところがあるからねぇ。普段はしっかりしてるのに」


「ま、リリアちゃんもいるし大丈夫だろう」


「あの子もあんなに可愛くなっちゃって、村でも大人気よ」


「そういえば前に聞いたんだがな、あいつレニ、リリアちゃんの家に行って何をしてるかと思えば婆さんと一緒にお茶を飲んでるんだと」


「まぁ! みんなはリリアちゃんと遊びたいって必死なのに。ニール君なんてお年頃で頑張ってたのよ? 最近は剣の稽古も真剣に取り組んでるって話だし」


「ほう、あのガキ大将だったニールがか! まったくそれに比べあいつは何をやってるんだか……」



 二人は静かに笑い合うと何かを思い出すように懐かしんだ。



「まさかお婆さんに聞いていた話が本当になるなんてねぇ」


「あぁ、まるでおとぎ話みたいだ。もし違っていたらすぐ戻ってくるだろうが」


「でもなんとなく……そんな気はするわ」


「俺もだ。それで考えたんだが明日内緒でソフィアさんに手紙を渡しておかないか? もし違ってたらそのまま燃やしてもらえばいい」


「それはいいわね、何を書こうかしら」


「こういうのは母さんのほうが得意だから先に頼むよ」



 ああだこうだと相談し書き進めた手紙が完成したのは、夜も更け朝日が昇る頃だった。

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